◆◇

初めてクラスメイトからはっきりと避けられていることを感じたのは、10月に行われた合唱コンクールの練習でのことだった。

私はアルトパートのメンバーとして、合唱に参加していた。曲目は「心の瞳」。バラード調のメロディーで、14歳の私たちにはまだちょっと早い、大人向けの歌詞だと感じていた。
けれど、私はこの「心の瞳」が好きだった。美しいメロディーと歌詞が心にぐっと響く。アルトパートで気持ちよくメロディーを歌えないのは残念だけど、逆にハモリができる心地よさがあった。

「ねえ、アルト、一人だけ声がでかいんだけど、誰?」
指揮者をしていた浦部美雨(うらべみう)が、ぶっきらぼうに告げた。
クラス全体での練習をしたのは、まだこのときが始めてだった。
「え? 誰だろう」
アルトパートのパートリーダーだった海堂詩織(かいどうしおり)が、私たちをぐるっと見回して、「あっ」と声を出した。その目が、私の口元を見ている。
「吉原さん」
確かに、アルトパートでパート練習をしている時に、私には自分の声が一番大きく響いているという自覚があった。いや、みんなが小さすぎるのだ。やる気がないのか、パート練習で自分の声だけが大きく聞こえるのは確かに腑に落ちなかった。だって、私は普段の声がとりわけ大きいわけではないのだ。
「他の人の声と調和してなくてキンキンするから、ちょっと抑えて」
浦部さんは、「調和」というもっともらしい言葉を使って、私を牽制した。
気取っているのか恥ずかしいだけなのか、私を覗くアルトのメンバー全員が、全力で声を出していなかった。

それなのに、全力を出していた私が、なぜ注意されるのか。
その瞬間は分からなかったけれど、今なら分かる。
答えは一つしかなかった。
私をクラスでたった一人の敵にすることで、みんなの団結力を高めたかったのだ。

それが浦部さん一人の策略なのか、理恵や他のみんなが企んだことなのかは分からないけれど。結果的に、3組は3位入賞を果たした。正直なところ、私はほっとしていた。自分がクラスメイトの攻撃の対象になったとしても、せめてコンクールで入賞してほしいと願っていたからだ。だってそれぐらいしか、やられっぱなしだった自分を、肯定できる術がないじゃないか。