「ねえねえ、昨日のテレビでやってたタピオカ特集見た?」
「見た見た! 美味そうだよな!」
「明日休みだから飲みに行こうよ!」
「いいよ!」

そんなたわいもない話をしている俺達は受験シーズン真っ只中の高校3年生だ。
俺の名前は如月(きさらぎ)凛(りん)。
そして、もう1人のはしゃいでる女の子が弥生(やよい)結衣(ゆい)。
俺たちは別段付き合ってる訳ではなく、一友達として毎日こうして仲良く過ごしている。
この学校は男女の仲も良く、恋心なしの男女の“友達”という人はたくさんいる。

俺達はそんなごく平凡のどこにでもいる高校生。

でも、俺は誰にも言えない秘密がある。
なんて言うと少し厨二病っぽいけど、確かに友達の結衣や他の男友達には隠している秘密がある。

それはーー。

俺は、結衣に……恋をしているということだ。


◇◇


ーー休日。

俺は朝の6時に起きた。
待ち合わせが10時なのに楽しみすぎて朝早くに起きてしまった。

「服、どしよ」

まるでデートコーデを悩む乙女の気持ちでクローゼットの中身とにらめっこしている。
だが、普段ファッションにこだわらない俺は服の少なさとセンスの無さに肩を落とした。
パーカーやポロシャツ、Tシャツしかない。
せめてもと思い、1枚のTシャツを着ることにした。無地でシンプルだが、こういうのは無難だろ。

朝ごはんを食べ、歯を磨き、身支度を整える。
この日のために髪を切り、慣れないワックスを使って何度も何度もスマホの時計と睨み合った。
時間が経つのが遅すぎて行こうとしてた時間よりも20分はやく家を出てしまった。
だからといって時間が早く進むわけが無いとわかっていても気持ちが先走ってしまう。

待ち合わせ場所に着いて、少し見渡すが予想通りまだ結衣は来ていない。待っている間念入りにスマホの反射で髪型を確認し、整える。

変じゃない、よな?

待ち合わせ場所に着いてから数分が経った頃突然スマホがなり結衣から電話が来た。
小さく深呼吸して電話に出る。

『どこにいる?』

たったその一言で俺の気持ちは宙に浮いてしまいそうなくらい舞い上がった。
が、悟られないようにどうにか平常心を装い、

「もう着いたよ」

とだけ言い、場所だけ大雑把に伝え電話が切れた。

俺はスマホを握りしめキョロキョロと見渡すとなんとなく結衣らしき人物を見つけた。

あ、あれかな?

普段1つに縛っている髪を下ろしていて、私服で一瞬誰か分からなかったが雰囲気で何となくわかる。
なんて声をかけようか悩んだ挙句、いつもの様におどけて顔を覗き込んだ。
案の定結衣は目をまん丸くさせて一瞬フリーズした。

「びっくりしたぁ……」
「ははっ。違ったらどうしようかと思った」
「って、凛。またその格好?」
「うん。服ねぇんだもん。てことで、タピオカ飲むついで服買うから選んでくんね?」
「おっけーっ! 私のセンスだけどね」
「おう」
俺は飛び跳ねたくなる気持ちでいっぱいになり、その気持ちを表すために満面の笑みを浮かべた。
これで、長く一緒にいれる口実ができた。

「んー、茶色取り入れたいなぁ。帽子もほしいかも……」
なんて呟きながら真剣に考えている。
今の結衣は他の誰でもない俺のことだけを考えている。そう思うと胸の奥底にある自己中な独占欲が満たされていく。

「それよか、とりま、タピオカのみにいこうぜ?」
「うんっ」
俺の促しに結衣は微笑み、こうして俺達はタピオカの店に向かった。

普段は混んでいるお店らしいが、珍しく空いている。
注文を終え外のベンチに並んで座った。

「美味しいー。けど、お腹にたまるね」
「せやな」
勢いよく飲む俺と対照的にちまちまと飲む結衣。何も考えないで飲んでたけど飲むスピード合わせた方がよかったかな。
なんて、普段男友達と飯を食べる時には絶対に考えない事をついつい考えてしまう。
そのため、底をつかせないようにしてじっと結衣その横顔を眺めていた。
口小さっ。なかなか減らなそう。

そんな事を思いながらずっと見ていると結衣が不意にこっちを見た。

「ん? これ飲みたい?」

「へ? あ、お、おう!」

見ていたのがバレ、動揺したが変に思われてなくて心の底から安心した。

「はい」
「あざす」
正直味なんてわかんない。お互いミルクティーでタピオカだけが黒糖か普通かの違い。

だけどーー。

間接キス……だ。

小学生のようにこれだけで舞い上がってしまう自分がかっこ悪い。

「俺のも飲む?」
「ほんと!? ありがとう!」
「飲みきっちゃっていいよ」
「やった!」
純粋な笑顔を向けられて、可愛くて愛おしくて胸が高まるばかりだ。

あー……好きだな……

タピオカを飲み終えた俺達は結衣おすすめの服屋へと足を運んだ。

「これもいいし、これもいいなぁ。凛はどれがいいと思う?」
「んー。結衣の好きな方」
「じゃあこっち!」

あえて結衣に選ばせることで、彼女好みの人間になろうと考えている俺は卑怯者だろうか。結衣は可愛い。その分俺の友達でも結衣を狙ってる奴は何人かいる。
だから、最近の俺は焦燥に駆られているが告白したら友達で居られなくなる気がして勇気がでない。
でも、今日はかなりデートっぽくていい感じな気がする。
今日の帰り際とか言ってみよう。

「これ、試着してみて!」
「おけ!」
試着室に行き、着替えるがあまり背の高くない俺には大きくてブカブカ。
……思ってたんと違う。

「どう? 大丈夫?」

結衣の声でカーテンを開けると、今にも笑いだしそうな表情をしている。
そんなにおかしいか?
不意に落ちず、口を尖らせてると次の候補を持ってきた。

「じゃあ、これは?」

結衣が渡してきたものを受け取り、俺はそれをまた試着してみる。
これなら、まだマシか?
俺がカーテンを開けると、結衣は少し呆けた表情をした。
「似合わん?」
「いや、むしろ似合いすぎてビビった」

心の底からの褒め言葉に俺は小っ恥ずかしくて頬を掻きながらはにかんだ。
それから、俺は結衣の選んでくれた服を買い、それを着て結衣と街を歩いた。

休日ということもあって人が多い。

ふと、結衣を見ると普段なら俺の方が背が高いのに結衣と同じくらいな気がした。
厚底の靴か。
俺は対抗するかのようにおもむろに背伸びをしてみる。

「どうしたの?」

不審に思った結衣がこっちを見て聞いてきた。

「これくらい身長があればと思って」

そうすれば、結衣と並んでもそこらへんのカップルと同じ様に見えるのに。
普通にしてても男女が2人の時点でカップルらしく見えてるだろう。でも、お似合いかどうかはまた別の話。
俺に足りないのは身長だけ。なんて根拠の無い自信が胸の中で膨れ上がっていく。

「あ、そうだこれあげる」
突然結衣が1つの袋を渡してきた。
「中見てみて」
「あ、おう」
丁寧に袋に着いたテープを剥がし、中身を見る。
中には茶色の紐で、プレート型のネックレスが入ってる。

「いいの!?」
「うん! プレゼント」

俺はウキウキですかさず首にかけて見せた。

「似合うじゃん」
「ありがとう!」
このネックレスは一生家宝にしよう。
心の中で俺はそんな事を誓っていた。

「歩くの疲れたぁ」
「じゃあ、ファミレス行くか?」
「うん!」
この厚底の靴は履きなれないらしく歩くのが大変らしい。そのため、辛そうに歩く結衣を連れて近くのファミレスに入った。
時間は午後3時。
お客さんもあまりいない。

料理を注文するとすぐに届き、俺達はそれを食べながら日常の話に花を咲かせた。

「でさぁ、最近仲良くなった陸くんがすっごくいい人で!」
「へぇ?」
「マメに連絡をくれるっていうか。彼氏にしても申し分がなさそうだ。て、何様だよね?」
冗談めかしてたははっと笑う結衣だが、俺の心中は嫉妬の業火で燃え盛っている。
陸、な。そいつは俺の友達で、結衣に惚れてる1人。俺とは違って真面目で頭も良くていい奴だ。
正直結衣が陸に気がいったら俺には勝ち目がなさそう。

「じゃあ、俺もマメに連絡するよ」
「拒否する」
「ですよねぇ」
俺の対抗心は呆気なく惨敗しおどけたように笑って会話を流した。

「でもさ、今日の凛全然ボケなくない?」
「ん? あ……そうか?」
自分でも気づいていた。
いつもと違う自分に。
俺達は結衣といる時は基本男女2人ずつの4人グループで、その時は終始笑いを狙いに行っている。笑いを狙いに行っても滑り倒す俺だがそれでも懲りずにふざけている。だが、今日はふざけた事を一切していない。
2人っきりで緊張してるんだよな。たぶん。

「んなら、ボケてやろうか?」
「やめてください」
結衣は相変わらずの通常運転でなんだか羨ましい。
俺ばかりドキドキしている。

ご飯を食べ終え話をしていたらいつの間にか6時近くになっていた。
3時間も居座っていたのか。

「もう帰んないと」

今日1番聞きたくなかった言葉が結衣から発せられ渋々席を立つ。
来る前は時間がなかなか進まなかったのに、あっという間だったなぁ。

「ここは俺が奢るよ」
「え!? いいの!?」
「うん。お礼な」
「ありがとう!」
結衣の1つ1つの表情や仕草にいちいち胸が煩くなる。
この胸を抑える方法はきっと気持ちを伝えることしかないんだろう。
そんな事がわかってるのに、伝えられないのは振られるのが怖いから。

叶わない恋だってわかってるから。

俺達は仲の良い“友達”だから。

上ずっていた胸がトゲが刺さったかのように、痛くなった。俺が陸なら友達じゃなかったら結衣は恋愛対象として見てくれたのだろうか。


街を歩いている中、前には手を繋いでいるカップルがいた。

「いいなぁ……私も彼氏がほしいな」

彼氏が欲しい、か。
わかっていた事とは言え、本人から口にされるとやっぱり胸が苦しくなる。異性の前でそんな事を言えるのは俺を完全に友達として見てるから。信頼してるからだと俺は勝手に思ってる。

「彼氏ができたら手を繋ぎたい!」
キャッキャッと1人ではしゃいでる結衣を見て、何を思ったのか俺は1歩前に出て手を差し伸べた。

「手、繋いでやろうか?」

自分でもびっくりするほどの真剣な声。
結衣はびっくりしたかのように目を見開いたがすぐに目を細めた。

「なにそれ! あははっ」

彼女からしたらただの冗談なのだろう。
気持ちは届くことは無かった。

「……友達になるんじゃなかった」

「ん? 何か言った?」
「あ、ううん! なんでもない!」
心の声が思わず口をついて出てしまいかなり焦った。
俺、何最低なこと言ってんだよ。クソが。絶対そんなこと思っちゃダメだろ!
自分に喝を入れつつも結衣に聞かれてなくて良かったと胸を撫で下ろした。

帰り道、6時過ぎてるのに夏だからなのかまだ明るく若干空が赤く染っている。
会話が尽きたのか無言で歩く結衣の横顔がとても綺麗で思わず告白してしまいそうになる。

好きだっていいたい。言わないと。

「それじゃ、バイバイ!」

別れ際結衣が微笑んで手を振った。
俺は慌てて「あのさ!」と呼び止めた。

「どしたの?」

心臓が早くなる。
握りしめた拳の中の手汗も酷いが緊張でそれどころではない。

「俺、実は……」

そこまで言うと結衣は辛そうな表情を浮かべ目を逸らした。

あ、ダメだ。

これ以上言ったらもうこの関係で居られなくなる。

「なんでもない。また明日な」

俺が口から出かけた言葉を飲み込むと、結衣は辛そうに微笑んだ。

「うん、また明日」

さっきまでの元気は結衣にはなかった。
きっと結衣は俺の気持ちに気づいていたのだろう。それでもって、さっきの表情は遠回しに振ったんだ。

結衣はあくまで俺の事を友達として見ている。
あの表情で俺はその事を確信せざるを得なかった。

別れたあとある程度まで歩いたら俺はネックレスを握り地面にしゃがみ込んだ。
人が通ったら変に思われるけど、幸い通行人はいない。

好きすぎて辛い。

可愛すぎて辛い。

気持ちを伝えたい。

でも、伝えられない。

結衣はモテる。
だから、何もしなくてもすぐに彼氏が出来るだろう。
大学は違うから今年でもうお別れだ。
でも、友達としてならこれからも繋がっていられる。
だけど、いつか彼氏が出来、その人との結婚式に呼ばれたら俺は耐えられるのだろうか。

まだまだ先の事だと思ってもその日はいつか必ず来てしまうのだと知っているから考えられずにいられない。
それならいっその事気持ちを伝えて嫌われた方が今後に影響が及ばないのでは?
そんなひねくれた考え方にいってしまう自分に嫌気がさす。

「あー。くそ…………結衣好みの男になりてぇな……」

その言葉は薄暗い中に消え、誰の耳にと届くことは無かった。