翌日、ありさの顔を見ると同時にひどい罪悪感に陥った。そのことがありさに伝わったのかは知らないけど、ありさはいつも以上に僕に絡んできた。

 ありさは、僕が言うのも変だけどすごく美人でスタイルもいい。狙ってた連中の数も一人や二人じゃないし、今でもありさに声をかける男子も普通にいるくらいだ。

 ありさの見た目がそうだからか、言い寄ってくる男はみんな田村みたいなイケメンばかりだ。学力しか取り柄のない僕を見て、みんなお構いなしにアタックを仕掛け続けていた。

 でも、ありさはどんな誘いにも決して応じることはなかった。付き合いはあったとしても、その心はまっすぐ僕に向かっているのは嫌でもわかっていた。

 それが時々怖いと思う時がある。僕が由紀だけしか見て来なかったから、一途な視線というのはなんとなくわかってしまう。だから、こうして未だに由紀へ想いを寄せていることを、いつかありさに見破られてしまうんじゃないかと不安になってしまう。

 だったらなぜ付き合い始めたのかと言われると、答えに困ってしまう。断り切れなかったというのもあるけど、一番の理由は、彼氏ができた由紀への当て付けだった。

 由紀が彼氏を作ったから、僕も彼女を作ったということを、暗に由紀に伝えたかったのかもしれない。

 そんな馬鹿げた理由で付き合っているようなものだから、ありさに対してはいつも後ろめたさを感じてしまい、今みたいに腕に絡んできても抵抗することはできなかった。

 昼休みが終わっても、由紀の姿は見えなかった。由紀は、お父さんが亡くなってから急におかしくなっていった。髪は金髪になり、学校の中でも化粧をするようになった。学校も休みがちになり、昼から登校したり、勝手に下校することもあった。

 お父さんが亡くなったショックのせいというのがみんなの意見だけど、僕にはそれだけとは思えなかった。

 そんな僕の不安が的中するかのように、ホームルームで担任の先生が険しい顔で由紀が行方不明になっていると告げてきた。

 事情を知っている者がいたら、先生に教えて欲しいと事務的に言った言葉を、僕以外は誰もまともに聞いていなかった。どうせ家出だろと誰かが呟いたところで、ホームルームは白けるように終わった。

「さあて、今から二度目の打ち合わせに行こうぜ」

 半分放心していた僕のもとに、田村とありさが寄ってくる。キャッスルに潜入する計画には、僕ら以外にも参加者が増え、なかでも田村が狙っている女の子が参加してきたから、田村はいつも以上に張り切っていた。

「あの」

 参加者たちが集まりだしたところで、今日は辞退しようと切り出そうとした。でも、それを遮るように、ありさが力強く腕に絡んできた。

 頭の中では、早く詳しい情報を集めて回りたい気持ちで一杯だった。でも、それを口にする勇気がなかった。自分の気持ちをはっきり言えない弱い心が、自分でも情けないほど悔しかった。

 流されるまま教室を出たところで、携帯が震えた。見ると、弁護士をしている兄からだった。

『賢一、ちょっと事務所に来れないか?』

 兄から連絡があることは珍しくなかったけど、事務所に呼ばれることは初めてだった。

『由紀ちゃんのことで、気になることがあるんだ』

 それどころじゃないという言葉を飲みこみ、どうしたのと尋ねた僕に、兄は小声で返してきた。

 わかったとだけ伝えて電話を切ると、みんなが心配そうに僕を見てた。

「悪いんだけど、先に行ってて。後で合流するから」

 電話の内容を知りたそうな顔をしているありさに、僕は理由を伏せたままやんわりと告げた。

「わかった。待ってるから」

 暫く無言で見つめていたありさだったけど、何度も念を押して、ようやく腕からはなれてくれた。