彼がイクのをやめた時に声にしたのは
あたしの名前じゃなかった
名前を呼ばれていても
彼の中にあたしという存在はなかった
きっとあたしは彼が想い続けている人に名前が似ていただけ
きっとあたしは身代わりという存在
あたしを身代わりにするぐらい
雨の中、空を見上げていた彼が想っていたのは
どんな人なんだろう?
フラれた彼女?
騙してきた彼女?
二股をかけてきた彼女?
憧れている彼女?
もうこの世にはいない彼女・・・?
もしも彼が想う人がもうこの世にはいない人ならば
あたしが彼を拾ったことは
間違いではなかったのかもしれない
彼の想いが成就しない気持ちの行き場を
誰かが拾ってあげてもいいのかもしれなかったから
でも、彼が想う人がこの世に存在するのであれば
彼の想い続ける人を裏切るような真似をしてしまった
あたしはまた同じ間違いを繰り返してしまったのかもしれない
いったい、どっちなんだろう?
「ごめんなさい・・・俺・・・」
そう謝った彼
あたしに対する申し訳なさが嫌ってくらい伝わってくる
彼が想う人が生きていようが、生きていないだろうが
身代わりで抱かれたというリアルを実感せずにはいられない
でも、反省なんかしなくていい
あたしだって、自分よりももっと不幸そうな人を慰めることで自分は大丈夫と思いたいだけだった
ただ寂しい者同士が肌を重ねて慰め合っただけなんだから