「・・・・・・・」


初めてまともに目が合った。


さっき見た目の淀み
さっきよりかは少しマシになっているところか
透き通るようなダークブラウンの瞳


あたしの絶対服従勧告にドン引きするどころか
あたしの瞳の奥を覗き込み、真意を探るような視線が
あたしの胸の真ん中を変な風に動かす


『やっぱり、今の冗談って言』

「俺、拾ってもらったコト、感謝してます。」


彼のその視線に、サイテー女ぶりを見破られたような気になったあたし。
そんなあたしのブラウスのボタンを丁寧に1個ずつ外し始め、バスタオルに覆われたあたしの肩から器用に袖を引き抜こうとする彼。
その時、あたしの鼻を掠めたのは目の前の彼のものと思われる柑橘系の爽やかな香り。

その香りにふんわりと癒されるあたしがいて。
そのあたしの体を抱きしめるようにブラジャーまでもやさしく外してくれた。


「だから・・・絶対服従します。」


この男、慣れてる
それなのに、あたしよりも明らかに肌が若い


『なんで、そうなるの?ばか?』

「はははっ。」

『なんで、そんな余裕なの?』

「・・・気持ちの、想いの行き場がない俺を・・・拾ってもらったから。」



俯いて目を閉じてそう呟いた彼
肌年齢 推定20才なのに
もうすぐアラサーのあたしよりも
ドキドキワクワクするような恋をしていてもよさそうなのに

なんで彼の横顔はそんなにも哀し気なの?


だから本当に抱きしめてあげたくなっちゃったじゃん


気持ちの
想いの行き場とやらを
どうにかしてあげたくなって

だって
あたしも
今日、不倫という不毛な恋を失ったばかりのあたしも

気持ちの
想いの行き場とやらがないのは
同じだから


ちょっとだけ彼よりも長く生きているであろうあたしが
どうにかしてあげたくなった


『こっちおいで。』


転んで擦りむいた膝小僧に絆創膏を貼ってあげるような感覚で
どうにかしてあげたくなったんだ