重たい気持ちのまま正人の運転する車に揺られる。正人は嬉しそうな顔をしながらハンドルを握っているのに、私はどうにも明るい気分になれなかった。アンドロイドである以上、嬉しそうに見せかけることはできるのだが。
「なあ、まな」
 突然声をかけられて、肩がビクッとはねあがる。どうしてこうも、私の体は言うことをきかないのだろうか。ロボットのくせに。
「話があるんだ」
 そういう正人の目は深刻で、真剣で。何か重大な話があるのだろう。もしかしたら、うまくできなかったから捨てられるのかもしれない。それなら、それもいい。それは廃棄ではなく、解放なのだから。
「俺、ロボットのマナもちゃんと愛してるんだよ」
 ……正人の言葉が、槍となって、雷となって、身体中を貫く。衝撃なんて言葉じゃ表せないくらい、それは恐ろしい言葉で。
「……まなのことは、今でも忘れられない。でも、毎日家事を頑張ってくれているマナにも、ちゃんと感謝してるんだ」
 やめて。ききたくない。
「だからさ、俺とこれからも一緒に……」
「嫌っ」
 私は車のドアを壊し開け飛び出した。逆方向目掛けて走り出す。車の扉を壊してしまった罪悪感も、走行中の車から飛び降りて壊れた足も、気にならない。ただそこにあったのは、ひとつの海みたいな感情だけ。
 私を見てくれないのはもちろん辛かった。でも、でも。私は私を認識してほしかっただけなの。愛されたいなんて思ってない。まなさんを、あの星を一途に愛する貴方が好きだったのに。
 許されるわけがない。許せるわけがない。だって、貴方は私を置いていってしまうじゃない。私は貴方について行けないのよ。だって、貴方は人間で、私はメンテナンスさえあれば永遠に壊れないアンドロイドよ。例え壊れたって、人間じゃない私は星にはなれない。貴方のそばにはいられないのよ。

 お願い。私のことを愛さないで。そんなことになるくらいなら、私のことなんて見てくれなくていい。だって、だって、君はっ……。