建物の中は倉庫を巨大にしたシンプルな作りで、飛行機だらけだった。

 天井からもぶら下がり、すごい数の飛行機が、そのまますっぽり屋内に入っている。

 どれだけ、この建物は大きいのだろう。

 感覚が麻痺してしまった。

 あの世界最大の木造飛行機、スプルース・グースも、奥でその姿を見せていた。

 操縦席にも入れるらしいが、別料金をとられ、それが高いので、俺たちは外から堪能した。

 一度しか飛ばなかったが、でかすぎて飛べるような代物に見えず、例え一度でも飛べてよかったと思ってしまう。

 それが浮いただけと皆から言われても。

「すごいね」

「うん、すごいね」

 そんな言葉しかお互いかわせなかった。

 一つ一つ、ゆっくりと見ていく。

 周りにはまだまだ、色んな物がある。

 空を飛ぶモノならなんでもあるように、ロケットまであった。

 月に着陸した時の乗り物や宇宙飛行士を表現しているものもある。

 本物の月の石や、宇宙服。

 その宇宙服は昔のタイプから最近のタイプを比べたりして、これで宇宙に行ったのかと感慨深い。

 また、NASAというロゴがかっこいい。

 こういう宇宙や空をテーマにしたものは、夢があってワクワクしてくる。

 シミュレーションで飛行機の操縦をまねる事もできて、そこは人気があってやりたい人で塊になっていた。

 アメリカの大きな国旗が、天井からぶら下がり、それが憎らしいほどスマートに飛行機とマッチしてかっこいい。

 普通に見に来た俺ですら、ひたすらかっこいいとしびれてるくらいだ。

 飛行機好きだと悶えるくらいに楽しい場所だろう。

 全て本物なのだから。

 色々と圧倒されてるうちに、知らずと、見る順番がずれて、ジェナは他の所に行って、離れてしまった。

 その間に、俺はスマホで気になる事を検索し、少しだけ自分の希望を取り入れてみる。

 それが上手く行きそうだと、隠れて喜んだ。

 これはジェナには内緒にしておいた。


 施設内には食事を提供する場所が土産物と並んで角にあり、結構な数のテーブルが設置されていた。

 俺たちは休憩も兼ねてそこで軽くお昼を済ませた。

 ジェナと向かい合ってテーブルについてゆっくりする。

 人が見学している様子を俺は見ながら、ポテトフライをつまんだ。

 ジェナはソーダに刺さったストローを手でいじりながら、話しかけた。

「アビエイターが上映された時、ここ、すごい数の人が来たらしいよ」

「みんな、スプルース・グース目当てで?」

「そうだろうね。それで一気に知名度があがったんだろうね。映画でもちゃんとその機体は出て来たし、操縦して成功したところまで紹介されてたから、本物があったら、見てみたいって興味が出てくると思う」

「俺も、見られてよかった。あれ、やっぱりすごい飛行機だ。どうやってここまで運んだのかが気になる」

「ほんとだ。それに、この建物の中にどうやって入れたんだろう」

「あっ、そういえば、あんな大きな入り口はない」

「色々とすごいよね」

「ほんとすごい」

 こうやってテーブルを囲んでジェナと会話してると、デートしてるみたいだ。

 たまに見つめ合ってしまうと、ドキッとしたり、コロコロ笑うジェナが可愛く思える。

 だけど、時々瞳に陰りが見えて、俺は困惑することがある。

 そこに、話が噛み合わなくなったり、俺の英語力の限界が加わると焦る。

 ジェナは一体何を秘めているのか理解したくて、俺はじっと見つめてしまった。

「どうしたの、ジャック?」

「ジェナって、なんか俺に隠してない?」

 何気に訊いただけだったが、ジェナの表情が強張った。

「どういう意味?」

「別に深い意味はないんだけど、ジェナにはジェナにしかわからない事があるのかなって思って」

 ジェナは落ち着いて微笑んだ。

 でも俺にそれが何かを話す気はないらしい。

 俺は元々ストレンジャーだから、そこまで深入りしてはいけないのかもしれない。

 もし、深入りしてしまったらどうなるのだろう。

 一緒に旅行をしているだけで、半分は深入りしているだろうが、もう半分は知らない方がいいかもしれない。

「さっさと食べて、次行こう」

 俺は深く考えるのがいやで、残っていたソーダを一気に飲んだ。

 俺たちにはまだまだ見るところがたくさん残っている。

 この日のほとんどを飛行機を見る事に費やした。

 でも、俺が変な事を訊いたからなのか、ジェナは少し口数少なくなっていた。