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ブレックファーストが無料だったので、軽く朝食をホテルで済ませた後、俺たちは外に繰り出した。
俺は背中にリュックを背負って、観光客丸出しの格好になっていた。
ホテルのすぐ隣には、前日ずっと走り続けていたハイウェイ26号線と他のハイウエイが混ざりあってぐるぐるとハイウエイが渦を巻いているようだった。
車の通りが激しいが、先を少し行ったところでハイウエィ26号線の頭上に歩道橋が架かっていて、それを渡ると路面電車マックスの駅に続いていた。
バスも何台か止まって、ここから色々な場所へ行けるようだ。
その隣には4階建ての巨大駐車場があったが、どこも車で埋まっている様子。
利用客は多そうだった。
小さな売店の側に、四角い箱型の切符の自動販売機があった。
デジタル画面の操作の仕方が、なんかややこしい。
先にボタンを押すのだが、一度で済まされない。
色々なオプションがあって、英語だから余計によくわからなかった。
ジェナが操作を手伝ってくれたおかげで助かったが、初めてだと、一人で買うのは難しかった。
切符買うだけの事に恥ずかしいけど。
一日乗り放題の5ドルのチケットを選んだのだが、5ドル札がなかったので20ドル札入れたら、残りの15ドルのおつりが全て1ドルコインで返ってきて驚いた。
「ファー?」
「ジャックポットだ!」
ジェナがしゃれたジョークを言った。
スロットマシンじゃあるまいし、あまり流通してない1ドルコインを貰っても、逆に使うのに不便だ。
「おつり出てきただけましだよ」
ジェナはさらりと怖い事を言う。
時には現金を受け付ける販売機が壊れている時もあったり、クレジットカードしか使えない販売機もあるという。
たかが数ドル払うだけなのに、なんとも性能の悪い。
そう思えば、日本の切符売り場はお札でおつりが返ってくるし、性能もいい。
そういうところだけ褒めても、今更何をと、怒られそうだけど。
じゃらじゃらと両サイドのズボンのポケットにコインを分けていれた。
階段を降りたところにホームがあり、そこで電車を待つこと数分。
タイミングよくすぐ来てくれて、さほど混んでもなさそうで、俺たちは座る事ができた。
車内は自転車を乗せてる人もいて、電車ですらアウトドア的な雰囲気がした。
英語でドアが閉まりますと言った後に、スペイン語の案内も流れた。
ヒスパニックの人種が多いらしい。
その他、色んな国の言葉で書かれた案内があったが、中国語も韓国語もアラビア語もあるのに、日本語だけなかった。
そのことをジェナに言えば、「ね、日本人観光客が少なくなったのわかるでしょ?」と返ってきた。
本当にそうなのだろうか。
半信半疑に首を傾げると、電車はトンネルの中に入っていった。
窓はずっと暗く、どこまでトンネルが続くのだろうと思ってた時、そのトンネル内で電車は止まった。
そこが駅だった。
「オレゴンズーがあるの」
ジェナは教えてくれる。
「ここに動物園?」
「ここからエレベーターに乗るの。かなりここ深いんだよ。地上まで260フィート」
換算すれば約79mになる。 ビルにしたら25,6階分はありそうだ。
どうかエレベーターが壊れませんように。
トンネルがふさがれませんように。
そんな事をつい願ってしまう。
でも子供たちが親に連れられて沢山降りていく姿は微笑ましかった。
その後、地下からやっと地上に出てきたとき、なんだかほっとした。
いくつかの駅で止まりながら、ダウンタウンの中心へと電車は向かう。
そんなダウンタウンの中に球場があったのには驚いた。
「野球場?」
「昔はそうだったんだけど、今は改装されてサッカースタジアムになってる。メジャーリーグのポートランド・ティンバーズと女子チームのポートランド・ソーンズの本拠地」
サッカーの事は興味がなくてわからなかったが、なんにせよ、街の真ん中にあるのは珍しい。
地元でもかなり熱狂してサポートしているのだろう。
そうしているうちに、ジェナが腰を上げ、降りる事を示唆した。
ビルが立ち並んでるが、コンパクトな街の印象。
「なんか治安よさそう」
俺が言った。
「うん、比較的安全ではあると思う。かなり開発されて、すごくお洒落に便利になった。その開発事業に日本人スタッフもいるんだって」
「へぇ、日本人が係わってるのか。すごいな」
「今もまだ変わり続けて、この先もっと奇妙に変わるかも」
「奇妙に?」
「”Keep Portland Weird”ってこの街のスローガンになってるの」
ポートランドを変にし続けろ?
「変があたりまえのように、皆自由に自分を表現している。『Portlandia』っていうコメディドラマ観た事ある?」
「知らない」
「ここで撮影されて、ポートランドの変な人が一杯でて、それを皮肉ってる話で面白いよ。機会があったら観て」
「それで、ほんとにそんな変な人ってこの街に一杯いるの?」
「いるよ! 私も良く見る」
「どんな感じの人?」
「例えば、ストリートカーの中でギター持って歌いだす人とか、自分で装飾した車に乗って走ってる人とか、車にクウガ乗せてた人もいた」
「実際遭遇したら二度見しちゃいそうだね」
「マックス(路面電車)乗ってたとき、駅で暫く止まってたんだけど、外に向かって手を振ってたおじいちゃんがいたの。その先には女性がいたんだけど、気が付いてないのか、全然反応してなかったの。それで、おじいちゃん、隣に座ってる人にも手伝ってくれって一緒に手を振ってもらったの。でも電車が動いちゃった後で、ちらっとその女性がやっとおじいちゃんを見たんだけど、すでに遅かったの。それで一緒に手を振るのを手伝った人が『残念でしたね』って労ったら、『全然知らない人だからいいよ。私は手を振るのが趣味なんだ』って言ってた。なんか吹き出しそうになった」
「ええ、巻き込まれた人、かわいそう」
「手をずっと振られてた人もかわいそうだったかも。ほんとは気がついてたけど、知らない人だから戸惑ってたんだろうね」
「それはほんと変な人だ」
「で、そのおじいちゃん、鞄からマッシュルームのパックを出して、これ安かったんだって自慢してた。だけど、それ痛んでくさりかけてたから、見せられても困ってたよ」
「自由だね」
「ほんと自由だよ」
そんな話をしながら歩いているうちに、変なオブジェが目に付いた。
ブレックファーストが無料だったので、軽く朝食をホテルで済ませた後、俺たちは外に繰り出した。
俺は背中にリュックを背負って、観光客丸出しの格好になっていた。
ホテルのすぐ隣には、前日ずっと走り続けていたハイウェイ26号線と他のハイウエイが混ざりあってぐるぐるとハイウエイが渦を巻いているようだった。
車の通りが激しいが、先を少し行ったところでハイウエィ26号線の頭上に歩道橋が架かっていて、それを渡ると路面電車マックスの駅に続いていた。
バスも何台か止まって、ここから色々な場所へ行けるようだ。
その隣には4階建ての巨大駐車場があったが、どこも車で埋まっている様子。
利用客は多そうだった。
小さな売店の側に、四角い箱型の切符の自動販売機があった。
デジタル画面の操作の仕方が、なんかややこしい。
先にボタンを押すのだが、一度で済まされない。
色々なオプションがあって、英語だから余計によくわからなかった。
ジェナが操作を手伝ってくれたおかげで助かったが、初めてだと、一人で買うのは難しかった。
切符買うだけの事に恥ずかしいけど。
一日乗り放題の5ドルのチケットを選んだのだが、5ドル札がなかったので20ドル札入れたら、残りの15ドルのおつりが全て1ドルコインで返ってきて驚いた。
「ファー?」
「ジャックポットだ!」
ジェナがしゃれたジョークを言った。
スロットマシンじゃあるまいし、あまり流通してない1ドルコインを貰っても、逆に使うのに不便だ。
「おつり出てきただけましだよ」
ジェナはさらりと怖い事を言う。
時には現金を受け付ける販売機が壊れている時もあったり、クレジットカードしか使えない販売機もあるという。
たかが数ドル払うだけなのに、なんとも性能の悪い。
そう思えば、日本の切符売り場はお札でおつりが返ってくるし、性能もいい。
そういうところだけ褒めても、今更何をと、怒られそうだけど。
じゃらじゃらと両サイドのズボンのポケットにコインを分けていれた。
階段を降りたところにホームがあり、そこで電車を待つこと数分。
タイミングよくすぐ来てくれて、さほど混んでもなさそうで、俺たちは座る事ができた。
車内は自転車を乗せてる人もいて、電車ですらアウトドア的な雰囲気がした。
英語でドアが閉まりますと言った後に、スペイン語の案内も流れた。
ヒスパニックの人種が多いらしい。
その他、色んな国の言葉で書かれた案内があったが、中国語も韓国語もアラビア語もあるのに、日本語だけなかった。
そのことをジェナに言えば、「ね、日本人観光客が少なくなったのわかるでしょ?」と返ってきた。
本当にそうなのだろうか。
半信半疑に首を傾げると、電車はトンネルの中に入っていった。
窓はずっと暗く、どこまでトンネルが続くのだろうと思ってた時、そのトンネル内で電車は止まった。
そこが駅だった。
「オレゴンズーがあるの」
ジェナは教えてくれる。
「ここに動物園?」
「ここからエレベーターに乗るの。かなりここ深いんだよ。地上まで260フィート」
換算すれば約79mになる。 ビルにしたら25,6階分はありそうだ。
どうかエレベーターが壊れませんように。
トンネルがふさがれませんように。
そんな事をつい願ってしまう。
でも子供たちが親に連れられて沢山降りていく姿は微笑ましかった。
その後、地下からやっと地上に出てきたとき、なんだかほっとした。
いくつかの駅で止まりながら、ダウンタウンの中心へと電車は向かう。
そんなダウンタウンの中に球場があったのには驚いた。
「野球場?」
「昔はそうだったんだけど、今は改装されてサッカースタジアムになってる。メジャーリーグのポートランド・ティンバーズと女子チームのポートランド・ソーンズの本拠地」
サッカーの事は興味がなくてわからなかったが、なんにせよ、街の真ん中にあるのは珍しい。
地元でもかなり熱狂してサポートしているのだろう。
そうしているうちに、ジェナが腰を上げ、降りる事を示唆した。
ビルが立ち並んでるが、コンパクトな街の印象。
「なんか治安よさそう」
俺が言った。
「うん、比較的安全ではあると思う。かなり開発されて、すごくお洒落に便利になった。その開発事業に日本人スタッフもいるんだって」
「へぇ、日本人が係わってるのか。すごいな」
「今もまだ変わり続けて、この先もっと奇妙に変わるかも」
「奇妙に?」
「”Keep Portland Weird”ってこの街のスローガンになってるの」
ポートランドを変にし続けろ?
「変があたりまえのように、皆自由に自分を表現している。『Portlandia』っていうコメディドラマ観た事ある?」
「知らない」
「ここで撮影されて、ポートランドの変な人が一杯でて、それを皮肉ってる話で面白いよ。機会があったら観て」
「それで、ほんとにそんな変な人ってこの街に一杯いるの?」
「いるよ! 私も良く見る」
「どんな感じの人?」
「例えば、ストリートカーの中でギター持って歌いだす人とか、自分で装飾した車に乗って走ってる人とか、車にクウガ乗せてた人もいた」
「実際遭遇したら二度見しちゃいそうだね」
「マックス(路面電車)乗ってたとき、駅で暫く止まってたんだけど、外に向かって手を振ってたおじいちゃんがいたの。その先には女性がいたんだけど、気が付いてないのか、全然反応してなかったの。それで、おじいちゃん、隣に座ってる人にも手伝ってくれって一緒に手を振ってもらったの。でも電車が動いちゃった後で、ちらっとその女性がやっとおじいちゃんを見たんだけど、すでに遅かったの。それで一緒に手を振るのを手伝った人が『残念でしたね』って労ったら、『全然知らない人だからいいよ。私は手を振るのが趣味なんだ』って言ってた。なんか吹き出しそうになった」
「ええ、巻き込まれた人、かわいそう」
「手をずっと振られてた人もかわいそうだったかも。ほんとは気がついてたけど、知らない人だから戸惑ってたんだろうね」
「それはほんと変な人だ」
「で、そのおじいちゃん、鞄からマッシュルームのパックを出して、これ安かったんだって自慢してた。だけど、それ痛んでくさりかけてたから、見せられても困ってたよ」
「自由だね」
「ほんと自由だよ」
そんな話をしながら歩いているうちに、変なオブジェが目に付いた。