先生が先生でなくなってしまった。そんな瞬間。
崩れ落ちた理想が、頭の中で熱を持ったまま脈打っている。
先生だって、ひとりの人間で。大人で。男の人で。
誰かを想うことも、誰かを大切にすることだって自由なはずなのに。わたしはそれを許せないと思った。許せないんだと知った。
ズキズキと痛む頭を抱え、涙と深いため息をこれでもかというほど吐き出す。少しでも楽になりたかった。
どうしてわたしじゃないんだろう。
間違ってもそんな言葉を口にしてしまわないように、今すぐ冷静さを取り戻すべきだ。
先生には彼女がいた。わたしは失恋したんだ。
何度も何度も頭の中で繰り返す。繰り返して、自分に言い聞かせていた。
わたしの初めての恋は終わったんだ、と。
『先生の彼女』
その存在をあれこれ考えてしまえば、半年近く経った今でも、それは苦痛なものでしかなくて。それでも、なんとか乗り越えようとする自分がいた。
上手く言えないけど。自分自身、もがきながらも受けとめようと努力しているんだと思う。
ならんで歩く姿。優しい眼差し。差し出したオレンジジュース。触れた唇。
本当は、こっそり想像した。きっと、恋をしたら誰もが想像してしまうであろう数々の場面を。
想像してしまった先生の表情ひとつひとつを、小さな箱に閉じこめていった。
いつかまた引っ張り出して、思い出に浸れるように、と。強引ながらも、ひとつ残らず。
なにが正解なのか、今はまだわからないけど。
先生が、先生であるように。
先生を好きだったわたしが、わたしであるためにも。ひとつ残らず思い出にする。
伝えることだけがすべてじゃない、と。
そうやって自分を慰め、褒めて。
いろいろなカタチがあっていいし、あるべきだ。
そんなふうに。