「倉田先生ー、」
授業が終わってすぐに声を掛ける。
返却された答案用紙を教卓に置き、
「ねぇ、ここ。なんでバツになってるの?」
小首を傾げて問う。
「あー、これね。e が抜けてる」
「うっそだぁ」
「ほんと」
「えー。まじかぁ。おまけしてくんないの?」
「残念ながら、無理だね」
先生と女子生徒のやりとりを、どこか冷めた目で見ていた。
わたし、お礼が言いたいのに。
この前はすみませんでした、って謝りたいのに。
数名のクラスメイトが先生の元へ行き、答案用紙を見せる。
「これはダメ?」
「うん。ダメです」
「ねぇ。ここ、正解じゃないの?」
「んー。不正解、だね」
「選択問題、b ばっかりってズルくない?」
「なんで?ズルくないよ」
その中に入っていく勇気は、もちろんない。
結局、その日は言葉を交わすことができなかった。
その日を逃したら、もっと言いづらくなって。結局、何も言えないまま夏休みに突入してしまった。