「こんにちは」
 私がよろず屋に入っていくと、スライムさんがぴょん、とカウンターの上に乗った。
 そのスライムさんの頭でなにかがキラリと光る。

「なにそれ」
「これは、すごくおもしろいんですよ!」
 スライムさんは、おじぎをするようにして、カウンターにその光ったものを置いた。

 10ゴールド硬貨だった。
 銀色の金属でできている。

「これがどうしたの」
「このこいんを、100ごーるどでかってきました!」
 スライムさんは、えっへん、とでも言いたげな様子だった。
「ええ?」

 私はカウンターの上にある10ゴールド硬貨をよく見た。10ゴールドを100ゴールドで買うというのはどういうことだろう。
 スライムさんがそんな単純なこともわからないとは思えない。とすると、なにかだまされてしまったのだろうか。
 
「うらをみてください。おもしろいですよ」
「さわっていいの?」
「はい! すごくおもしろいですから!」

 おもしろいとしても、あまり見る前からおもしろいを連呼すると心の準備ができすぎてしまってよくないよ、と思いながら私は10ゴールド硬貨を手に取った。
 ひっくり返してみる。
「わ」

 裏がつるつるだった。
 表は他のものと変わらないのに、裏がまったくへこみがなくて、光を反射している。

「どうですか! おもしろいでしょう!」
「うん」
 裏がなにもないのを見せられてしまうと、元々はどんな模様だったか思い出せなくなりそうだ。私はなんとか、葉っぱの模様を記憶から引き出した。

「これが100ゴールド?」
「はい! おかいどくです!」
「そっか」
 私にはどんな価値なのかわからないけれども、スライムさんがいいならいいだろう。

「これって、裏はなにもないってことは、ちょっと重いんだよね?」
 模様の分の金属が削られていないのだから、そうだろう。
「そうですね!」
「私もおもしろいこと思い出したよ」
 そう言うと、スライムさんが目を大きく開いた。

「なんですか?」
「ええとね、八枚のコインがあって、その中でひとつだけ重いコインが入っていたとするでしょ?」
「はい」
「それで、見分けがつかないとするでしょ?」
「はい」
「でも、秤があったら比べられるから、どっちが重いかはわかるよね? 何回使えば、重いコインを見つけられると思う?」

 スライムさんは、ぴょこぴょこと頭を左右に動かした。
「ええと、ええと……。よんかい、つかえば、ばっちりです!」
 スライムさんはぴょんぴょんと四回はねた。

「実は、二回でできるんだよ」
「ええー!」
 スライムさんはぴたっ、と止まった。

「うんがいいばあい、ということですね?」
 スライムさんがおそるおそる言う。
「運が悪くてもできるよ」
「そんなばかな!」
「教えてほしい?」
「ぜひ!」
 スライムさんがうなずくように体を折る。

「じゃあ、秤ってある?」
「はかりですか? ええと、だったら、ぼくにのせてください」
「スライムさんに?」
「はい。おもさのくべつはまかせてください」

「じゃあ、試していい?」
「はい!」

 本当にわかるのかな。
 私は、持っていた10ゴールド硬貨三枚を二つにわけて、二枚ずつ、すこし離してスライムさんの上に置いてみた。

「こっちです」
 スライムさんは右側をちょっと上げた。
 見ると、そちらに裏が平らなコインがあった。
「すごい!」

 私は念のため、感触でわからないよう、平らな面はスライムさんに触れないようみんな表がスライムさんにふれるように置いたのに。

「じゃあもう一回」
 やってみても、二回やってみてもスライムさんはぴったり当ててみせた。

「すごい!」
「そうですか?」
 スライムさんはうれしそうだった。

「ではこんどは、はかりをつかって、にかいでわかるほうほうを、おしえてもらえますか?」
「え? えーっと……」
「わすれちゃったんですか?」
「えっとね……」

 私はスライムさんにあと四枚用意してもらっていろいろ試した。スライムさんが秤になるのがおもしろくて、三枚ずつに分けてから秤にかけて、釣り合ったら残った二枚を秤にかけて重くなった方、釣り合わなかったら重くなった方のうち三枚の、二枚を秤にかけて、釣り合ったら残りのひとつ、釣り合わなければ重くなった方、というやり方を思い出してからも、思い出してないフリをして何度かスライムさんを秤にして遊んでしまった。