道を歩いていたら、落ちていた葉っぱがくるくると渦をまきながら飛んでいた。私のひざくらいの高さだ。
 そのくるくるの風が私に近づいてくる。
 脚にからみついてくるようにやってくると、葉っぱはくるくるしたまま、通り抜けていった。
 くるくるしながら、離れていった。
 ああいう風って、なんていったかな。


「それは、つむじかぜですね」
 スライムさんは言った。
 カウンターの上にいて、なぜか薬草をふんで、平べったくしている。
「つむじ風か。なるほど!」
 私は納得した。
 めずらしく、スライムさんが正解を言っている気がする。

「えいむさん。あなたはいま、ぼくに、しつれいなことをかんがえましたね?」
「え? わかるの?」
「そうだったんですかえいむさん! しつれいですよ!」
 スライムさんがぴょんぴょん。

「あれ、スライムさん、もしかして、だましたの? わからないのにわかったふりしたの?」
「むむ。えいむさん、そ、そんなこといってるんだったら、つむじかぜをつくれるほうほうを、おしえてあげませんよ!」
「え、つくれるの?」
「どうしましょうかねー」

 スライムさんは、もったいぶるように私を見た。
「つくるって、風を?」
「そうですよ!」
「かぜをつくるって、どういうこと?」
「つまりですね」
 スライムさんは、カウンターの奥に降りるとそのあたりをごそごそと探っていた。


 頭に杖をのせたスライムさんはお店の外に出た。

「こうします」
 スライムさんが、体で包むように持った杖をくるりとまわす。
 すると。

「わっ」
 私の足の近くで、空気がくるくるまわった。
 でもすぐ消えて見えなくなった。

「つむじ風だ!」
「すごいでしょう」
「すごい!」

 私が言うと、スライムさんは満足そうに、にこにこしていた。

「その杖の力なの?」
「はい。これは、かぜかんけいのつえです!」
「風関係」
 手広くやっている杖のようだ。

「大きいつむじ風もつくれるの?」
「おおきくまわせば、できます! たくさんまわすと、つよいかぜになりますよ!」
「へえ」
「やってみますか?」
「え?」
「どうぞ」

 杖をわたされてしまった。

「どうしました?」
「うーん。なんか、ちょっとこわいかもしれない」
「だいじょうぶですよ。さいあく、まちがほろぶくらいです」
「大変だよ!」
「えいむさん。きをつけていれば、さいあくなことには、ならないものです。さいあくとは、さいあくをわすれてしまったひとに、おこるものです……」
 スライムさんは遠い目をした。

「えっと?」
「つまり、こわいなら、そっとやればいいんです」
「なるほど」
 私は深呼吸をした。

 空中で、さっきスライムさんがやったよりも、さらに小さいくらいの円を描いてみる。
「あ」
 足の近くで空気がちょっとだけ、くるりとまわった。

「出た」
「はい!」
「もう一回、やってもいい?」
「はい!」

 私は、同じくらいの大きさの円を今度は、くるくるくる、と三回やってみた。
「お」
 私のひざくらいの高さしかないけれど、葉っぱや土を巻き上げたのが、はっきり見えた。

「まだまわってる」
「えいむさん、もっとだいたんになってみましょう」
「大胆に?」
「もっと、こころをときはなつのです……」

 それはよくわからないけど、私はまた、小さな円を描いた。
 でも今度は、何度も何度もくるくるやってみる。
 くるくるくるくる、と十回くらいやってみた。
 するとしっかりとその場に残っている。

 落ちていた葉っぱを上から落としてみたら、風に巻き込まれてくるくる一緒にまわっている。

 止まらないように、私は追加でまたくるくると杖を回しながら、スライムさんにきく。
「スライムさん、これ、さわったらどうなるの?」
「すずしいんじゃないかとおもいますけど」
「ふうん」

 そう言われたので、私は軽い気持ちで、足をその小さなつむじ風に足をふみいれてみた。
「わっ!」

 足が押し返されて、私は尻もちをついていた。

「えいむさん! だいじょうぶですか!」
「うん、平気だよ」
 私はすぐ立ち上がった。
 痛みもない。

「ちょっとびっくりした。なんだか、誰かが、私の足をぐいっ、て押し返したみたいだった」
「そうなんですか?」
「うん」
「……じゃあ、ぼくもやってみますね!」
「え?」

 なにが、じゃあ、なの? ときこうと思ったら、スライムさんはもう、つむじ風に向かって、飛びこんでいった。
「えいっ!」
 と入っていったスライムさんは、つむじ風の中でくるりと回転した。と思ったら、よろず屋の屋根くらいの高さまでぴょーん、と回転しながら飛び上がった。

 そして同じ場所に落ちてくると、つむじ風に受け止められた。
 受け止めた勢いでつむじ風は消えてしまったみたいで、スライムさんは、ふわりと着地。

「だ、だいじょうぶ、スライムさん?」
「はい! ちょっと目がまわりましたけど、おもしろいです! もう一回やってください!」
「ええ?」

 スライムさんがせがんでくるので、私はもう一回つむじ風をつくった。
 そこへスライムさんが飛びこみ、ぴょいーん、と高く上がって、つむじ風にもどってくると、ふわりと着地だ。

「おもしろいです!」
 スライムさんの目がちょっとくるくるまわっている。

「私もやってみようかな」
「おもしろいですよ!」
「じゃあ」

 杖をくるくるまわして準備。
 ちょっとこわいけど、そこに飛びこんでみた。
 そうしたら、ふわっ、としたけど、それだけ。
 すぐ着地してしまった。

「あれ?」
 もう一回風を準備してやっても、同じだった。

「あの、いいにくいんですけど……」
 スライムさんが言う。

「えいむさんは、その、たいじゅうが、おもいじゃないですか……? だから、だと、おもいます……。あしだけなら、あがると、おもいますけど、ぜんしんは、ちょっと……。どうしてもやるなら、もっとつえをまわすと、とびあがれるようになると、おもいます……」
「ちょっとスライムさん! その言い方だと、私がものすごく体が重いみたいでしょ!」
「あ……、えっと……、そんなことは、ありません……」
「スライムさん!」
「えいむさんがおこった!」

 スライムさんは、私が準備したつむじ風を巧みに利用すると、ぴょーん、とよろず屋を飛び越えて、お店の裏の方へ飛んで逃げていってしまった。

「スライムさーん!」
 なにそれすごーい!