「もんだいです」
 よろず屋に入ったら、急にカウンターの上にいるスライムさんがそう言った。

「え?」
「せかいで、いちばんたかいやまのなまえを、こたえなさい」
 スライムさんはまじめな顔で言った。

「なんの話?」
「そのぼたんをおしてから、おこたえください」
 スライムさんは、すっ……、と四角い小さなものを、前に押した。
 手のひらくらいの大きさで、上の面に、ぽちっ、と黒いものが出ていた。
 それを押してみる。

 ぽーん!

「わっ」
 元気な音がした。

「はいえいむさん!」
「え?」
「おこたえください!」
「ええと」
 世界で一番高い山、って言ってたっけ?
 ……うーん。

「えっと、あの、よくわからな」
「じかんぎれです!」
 ブー、とスライムさんが言った。

「難しいよ。正解はなんなの?」
「それは」
「それは?」
「……ぼくもわかりません」
「ええ?」
「じつは……」

 スライムさんによると、この、早押しボタン、というものを手に入れたので、さっそく問題を出したかったのだという。

「でもじゅうだいなもんだいがあったのです。ぼくは、もんだいをしらなかったのです……!」
「えっと?」
 問題があった、問題を知らない、と問題という言葉が重なっているのでわかりにくいけど。

「じゃあ、わかる問題を出せばいいんじゃない?」
「そうですか……?」
「うん」
「なるほど」

 スライムさんは、ぱっ、とひらめいた。

「それなら。もんだいです! このおみせで、やくそうは、いくらでしょう!」
「はい!」
 ポーン!

「はいえいむさん!」
「7ゴールド!」
「せいかいです!」
 スライムさんは、ぴょん! とはねたあと、うなだれてしまった。

「どうしたの?」
「なんだか、かっこよくないです」
「そう?」
「せかいでいちばんとか、そういうもんだいが、いいんです!」
 スライムさんがぴょんぴょんはねる。

「難しいのが、かっこいい?」
「はい!」
「……でも、難しくなくても、おもしろいよ」
 私はボタンを押した。

 ポーン!

「7ゴールド! ……こんな感じで答えるの、おもしろいよ」
「おもしろいんですか?」
「うん。かんたんなのでいいよ」
「そうですか? じゃあ、いきますよ?」
 スライムさんはまだしっくりきていないようだった。

「うん」
「もんだいです。ぼくは、みずにぬれると」

 ポーン!

「あ」
 指があたってしまった。

「ごめんごめん、まちがって途中で押しちゃった」
「……いいですね、えいむさん!」
「ん?」
「とちゅうでおすの、いいですね、えいむさん!」

 スライムさんは興奮してとびはねる。

「とちゅうで、おすの、かっこいいです!」
「そうかな?」
「そうです! こたえてください!」
「え?」
「おしたんだから、こたえてください!」
「えっと……」

 スライムさんが、水にぬれると……?

「水を吸って、大きくなる」
「せいかいです! すばらしいです!」

 スライムさんがぴょぴょぴょぴょと、はねまわった。

「ぼくも、やってみたいです!」
 スライムさんは言った。

「いいよ」
「はい! もんだい、だしてください!」
「わかった。じゃあ、スライムさんは、私によく、食べ物をくれますけれども、それはいったいなんでしょう!」
「……んん?」
 スライムさんは体を傾けた。

「んん?」
「……やくそう」
 私は小さい声で言った。
「あ!」

 ポーン!

「はいスライムさん」
「やくそうです!」
「正解!」
「やりました!」
 スライムさんはぴょんぴょんはねた。

 すぐ止まった。
「もんだいのとちゅうでこたえるやつ、できませんでした」
「じゃあ、他の問題を」
「おなじもんだいで、おねがいします」
「同じでいいの?」
「はい!」
「……それ、かっこいいの?」
「はい! もんだいのないようは、このさい、どうでもいいのです!」
「どうでもいい」
「じゅうようなのは、みためのかっこよさです!」
「なるほど……」

 言い切られると、そんな気がしてくる。

「ではえいむさん! やくそうのもんだいを、よろしく!」
 スライムさんは、きりっ、とした顔で問題を待っていた。
 たしかにかっこいい。
 答えをあらかじめ知っているという、不正をしているとはすこしも思えない、堂々たる態度だった。