「スライムさん、それ、どうするの?」
 しばらくたっても、スライムさんの体はまだ黄色いままだった。

 スライムさんの場合、青に緑を混ぜたら黄色になる。
 ということは、黄色になにを混ぜたら青になるんだろう。
 ふつうだったら黄色になにを混ぜても青にはならないと思うけど、スライムさんの法則にしたがうと……。

 スライムさんは、カウンターの上に飛び乗った。
「ぼくはきいろくなっても、ぼくです!」
 びしっ!
 ポーズを決めていた。

「それはそうかもしれないけど、青いほうが、スライムさんっぽいかなって」
「えいむさん。ぼくっぽいってなんですか? ぼくっぽさをきめるのは、ぼくじしんです!」
「なんの話?」
「ということで、ちょっとまっててください」

 奥に行ったスライムさんは、いろいろなものを引きずってもどってきた。
 フライパンと、それを置く台のようなもの。
 フライパンの上には卵が三つ。

「これは?」
「おむれつを、つくります」
「オムレツ?」
「しりませんか? たまごをやきながら、こう、くるりと、まるっこく、しあげていく、あのりょうりを」
「それは知ってるけど」
「では、おねがいします!」

 私はスライムさんに言われたとおり、卵をかきまぜて、そこに塩をふった。
 スライムさんの用意してきた台は、そこに熱を生み出す魔法石が埋めこんであるということで、フライパンが熱々になっていく。
「では、たまごを!」
「はい」

 卵を流し入れると、木べらをくわえて持ったスライムさんは、すごい勢いで卵をかきまぜはじめた。
 くるくるくるくる、と混ぜていく。
 中のほうを混ぜて、フライパンの端で焼けていく卵を、内側にかき集める。
 まだ生の卵が外側に流れていくと、またそれを集める。
 そうしてたちまち、全体的に卵に火が通っていく。

「いまです!」
 私がフライパンを持つと、スライムさんが、手前から奥にかけて、すいー、と卵をかぶせるようにした。
 それから、奥の部分をちょっと手前に返して、半熟卵が、外の焼けた卵にフタをされた。

「えいむさん、ひっくりかえしてください!」
「私が?」
「そうです!」
「やったことないよ!」
「できます!」

 せーの、で合わせて、私がフライパンを上げるのと、スライムさんが木べらを動かすのを同時に。
 すると、ぱたん、と卵がひっくり返った。
「やりましたね!」
「う、うん」
 あぶなかった。

 スライムさんはちょっと火を通すと、もう一回ひっくり返した。
 最初は口がちょっと開いていた部分が、火を通すことでしっかりと閉じていた。
 皿に移すと、黄色い、丸っこい、きれいなオムレツができあがった。

「できました!」
「そうだね。スライムさん、オムレツ作るのうまいんだね」
「はじめてです!」
「ええ!?」
「いまのぼくは、きいろですから! かんぜんに!」
 スライムさんは堂々と言った。

 黄色だったらなんなの? と言える雰囲気ではなかった。

「食べてください!」
「う、うん」
 スプーンで口に入れる。

「わあ」
 ふんわりしていて、中はとろりとしている。
 とてもいい食感だ。
「おいしい!」
「それはよかったです」

 スライムさんを見ると、スライムさんが青色にもどっていた。
「スライムさん、体が青いよ」
「ほんとうですね!」
「どういうことだろう」
 見ると、床がちょっとぬれている。
 スライムさんはさっきの、緑色の薬湯から出てきたところのようだった。

「あ」
 緑に青を混ぜると黄色。
 ふつうは青に黄色を混ぜると緑だから、入れ替わってるんだろう。
 だから、黄色に緑を混ぜたら、青にもどった。
 ……わかるような、わからないような。

「どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない」
 私はまたオムレツを食べた。
 おいしい。