よろず屋に入ると、スライムさんはもうカウンターの上にいた。
「いらっしゃいませ!」
「こんにちはー」

 コホコホ、とちょっとセキをしたら、スライムさんがふしぎそうに私を見た。
「どうしましたか?」
「うん、ちょっと昨日の夜からセキが」
「それはいけませんね!」
「でもちょっとだから」
「そのちょっとが、そこそこになり、いっぱいになるかもしれません! いけませんよ!」
 スライムさんがぴょんぴょんしながら言う。

「ちょうどいいものがあります!」
「なに?」
「これです!」

 スライムさんがカウンターの上に出してきたのは、薬草だった。
「薬草?」
「はい!」
「食べるの?」
「ちがいます! これは、おゆにいれるのです!」

 スライムさんによると、これをお湯に入れて、その中でゆったりあたたまると、薬草の成分が体にじわじわとしみていき、ちょっとしたカゼなんてすぐに治ってしまうらしい。

「お湯の中に入るの? ちょっと手間がかかるね」
「あしだけでもいいですよ!」
「足だけで?」

 たらいを用意してくれたスライムさん。
 わかしたお湯を用意して、そこに入れる。
 ちょっと熱すぎたので、外の水をやかんに入れてきて、ちょっとずつお湯の温度を下げた。
 手で確認する。
「ちょうど、あったかいよ」
「いいですね!」

 スライムさんは、カウンターの上に置いてあった薬草を、たらいの中に入れた。
「あ」
 葉っぱがほどけるように、お湯の中をただよいはじめた。
 すこしずつ、薬草からしみ出た色で、お湯が緑色になっていく。

「おおー」
「どうですか」
「なんだか、ちょっと、とろっとしてるね」
 お湯をさわってみると、ぬるっとするというほどではないけれども、手にまとわりつくような感触があった。

「それが、れいのあれです!」
「例のあれ」
「はいってみてください!」

 私はスライムさんが持ってきてくれた椅子に座り、素足をたらいの中に入れた。
「おおー」
「どうですか」
「あったかいよ。足だけでも」
「そうですか!」

 あったかいのは足だけなのに、みるみる全身があったまっていくのを感じる。
「ぽかぽかしてきた」
「いいですねいいですね!」
「もうちょっと入ってていい?」
「いいですよ! そうだ、ぼくもはいっていいですか!」
「え?」
 やめたほうが、と言おうとしたら、もうスライムさんは、ちゃぷん、と中に入っていた。

「おお、あったかい!」
「スライムさんは入らないほうがいいんじゃ」
「どうしてですか! ひとりじめですか!」
「そうじゃなくて、スライムさんは水分を吸っちゃうから、薬草の色が移ったりするかも」
「なるほど!」
 スライムさんはたらいから出た。

「あ、色、変わってるね」
 スライムさんは、いつもの透きとおった青でなく、黄色になっていた。

「あおに、みどりをまぜると、きいろになるんですよ!」
「そうなんだね。……そうだっけ?」
「でもそのうちもどりますから、きにしなくてもだいじょうぶです!」
「そっか、よかった。で、青に緑をまぜると」
「それよりえいむさん! もうすっかりげんきですか!」
「うん。セキも出なくなった気がする」
「よかったですね!」
「それはいいんだけど、青に黄色をまぜたら緑じゃなかったっけ?」
「いやあよかったですねえ!」

 スライムさんは、ちょっと大きくなった黄色い体をぷよぷよと、うなずくように動かした。