よろず屋に入った私は、足を止めた。

 カウンターにあったのは、白いかたまりだった。
 丸っこくて、どこか、ましゅまろ、に似ているけれど、私の頭くらいの大きさがある。
 スライムさんが持ってきたんだろうか。

 スライムさんはどこだろう。
「スライムさん?」
「むむむ」
 白いかたまりが言って、ぐらぐらと動いた。

 私は心のなかで1、2、3、と数えてから、もう一度よびかけた。
「スライムさん?」
「むむむ」
 白いかたまりは言って、ぐらぐらと動いた。

「スライムさんなの?」
 私はカウンターの上にある白いかたまりをさわってみた。
 ふわふわとやわらかく、表面はかわいていた。
 スライムさんの表面はぷるぷるしていて、しっとりしている。
 ではこれはなんだろう。

「ん?」
 白いかたまりが、ぷるぷると、ふるえ始めた。
 すると、いきなりはじけた。
「わっ」
 白いものが飛び散って、中からスライムさんが現れた。

「いらっしゃいませ、えいむさん!」
「もう、スライムさん!」
「どうしましたか?」
「どうしたじゃないよ! ああ、こんなに散らかして」
 カウンターや、床に、白いものが飛び散っている。

「とくべつな、とうじょうをしようとおもいまして」
「しなくていいよ! これ、なに?」
「ましゅまろです」
「あ、やっぱり」
「ましゅまろは、なかもずっとまっしろで、あまくて、ふわふわでした」
「え? 虫の巣なんじゃないの?」
「ちがいました。おかしです」
「なーんだ」
「ぼくは、おおきいましゅまろをてにいれたので、こう、なかにはいって、たべて、かくにんしましたので!」
「それはすごい」

 お菓子の家、というのは考えたことがあったけれども、自分の体と同じくらいのお菓子の中に、食べながら入ってしまうなんて、考えたこともなかった。

「ぼくはすごいすらいむなので、それくらいのすごさは、すごいのです!」
 スライムさんは得意げだった。
 よく見ると、スライムさんの中は、白いものがぎっしり詰まっているようだ。
 いま食べた、ましゅまろが。
 虫はいないみたいだ。

「それなら、私も食べてみようかなあ」
「どうぞどうぞ!」
 スライムさんが出してくれたましゅまろを、口に入れてみた。

「ん!」
 弾力があって、でも口の中ですこしずつ溶けていくような、不思議な食感だった。
 そしてなにより、あまくておいしい。

「砂糖がたっぷり使ってありそう」
「そうですね! さいこうです!」
「スライムさん、よっぽどましゅまろが気に入ったんだね」
「あ、そうだえいむさん。ましゅまろを、ください」
「え?」

 急に言われて、私はましゅまろを落としそうになってしまった。

「このまえ、ぼくは、ちょこをあげましたね?」
「うん」
「ちょこをくれたひとには、ましゅまろをおかえしする。それがしゃかいの、るーるらしいのです」
「社会のルール」
「ください」
「え、でも、私ましゅまろ持ってないよ」
「それがあるじゃないですか」
 スライムさんは私が持っているましゅまろを見た。

「これでいいの?」
「はい!」
「どうぞ」
「ありがとうございます!」

 スライムさんは、ましゅまろをおいしそうにほおばった。
 と思ったら、動きが止まった。
 目を見開いている。

「どうしたの?」
「う、うう」
「あ、おいしすぎて動けない、とか言うんでしょう」
「たべすぎて、うごけません……」

 スライムさんのぷるぷるの体が、ましゅまろのふわふわに支配されてしまったようだった。

 私は外に行って、バケツに水をくんできた。
 その水をかけてあげるとスライムさんの体積が増えて、動けるようになった。

「これで安心だね」
「はい! もっとたべられます!」
「やめなさい!」