雪はまだたくさん町に残っていた。
 そんな日は、空気がぱりっと冷たい。
 私は、寒いのはそんなに好きではないけれども、この特別な空気は好きだった。

 通り道に、私の身長くらいの雪だるまがあった。
 頭の部分に、枝をはめて顔をつくってあった。
 笑っているように見えて、私も笑ってしまった。

 スライムさんと雪だるまをつくろうかな。

 よろず屋が近づいてきたころ、そんなふうに思った。

「んん?」

 雪だるまがあった。
 いっぱい。

 よろず屋の建物の近くに、小さい雪だるまがたくさんならんでいる。
 近くで見てみる。
 私のひざの高さくらいの雪だるまばっかりだ。

「これは……」

 雪の上に、木の板が落ちていた。
 そこには、ちょっとぐねぐねした字で、ぼくはどれでしょう、と書いてあった。
 僕はどれでしょう……?
 書いたのはスライムさんだろう。
 ということは、まさか?

「スライムさんが、いる……?」

 そういうつもりになると、雪だるまはみんな、スライムさんくらいの大きさに見えてきた。
 雪だるまのふりをして、探させようとしてるの?

 また、カチカチに凍ってしまったんじゃないだろうか。
 私は雪だるまを見わたした。
 全部で二十……、三十個以上ある。

 どうやってたしかめたらいいんだろう。
 とりあえず、一番近くにあった雪だるまをさわってみた。
「スライムさん?」
 返事はない。
 でもカチカチだ。

 スライムさんが雪だるまになったなら、きっと雪とちがって、氷のような感触になるはずだ。
 ということは。
 割ってしまわないよう、私は、ぐいぐいと指で押してみる。
 全然指が入らない。
 氷のようだ。
 いきなりあたりかな。

 そう思って念のため、下の段になっている雪玉も押してみる。
 指が入らない。
 
 となりの雪だるまもそう。
 どの雪だるまも、表面は白っぽいけれども、氷のようにかたい。
 ずいぶん力を入れてつくったらしい。

 どうすればいいんだろう。
 お湯をかけて溶かしてみるわけにもいかないし。

 春になるまで待つ……?
「うーん……」
 さすがにそれは長すぎる。

 いやいや、ちゃんと考えよう。

 あれ。
 雪だるまは、ずらりとならんでいる。
 でも、その端のほうに、へこみがある。
 一番端にある雪だるまの横。
 雪だるま一個分くらいのへこみ。

 そこから、なにか引きずったようなあとがよろず屋に続いている。
 そうだ、引きずったようなあとは、実は、このあたり、いくらでもあった。
 スライムさんが通ったところだ。
 これはスライムさんのあしあとだ。

 私はスライムさんのあしあとを、慎重に、顔を近づけてよく見た。
 あしあとには、深さにちょっとした差があった。
 雪だるまを用意していたときに、雪が降っていたのかもしれない。

 それぞれを見ていくと、完全に言いきれるわけではないけれども。
 よろず屋から近づいてくるあしあとが一番浅く、よろず屋に向かっていくあしあとが一番深い気がする。
 一番深いあしあとが、一番新しい、という予想にしたがうなら。
 スライムさんはよろず屋にいる。

 私はよろず屋に入っていった。
「あ、いらっしゃいませ!」
 スライムさんがいた。
 ポットのようなもののをじっと見ている。

「スライムさん? なにしてるの」
「はい、あたたかい、おちゃをよういしてました!」
「おちゃ?」
「はい。えいむさんにもんだいをだしたので、あたたかいものを! いま、えいむさんはさむいところで、ぼくをみつけるため、がんばっているはずなので! ……おや?」
 スライムさんはこっちを見た。

「えいむさん?」
「おはよう」
「なぜここに!」
「なぜって……」
「ぼくをさがすように、かいておいたじゃないですか!」
 スライムさんは興奮してぴょんぴょんはねた。

「だって、スライムさん、いなかったから」
「そんなことないですよ! しょうこ、あるんですか!」
「証拠っていうか、スライムさんのあしあと、みたいなのをたどってきたら、ここについたの。よろず屋にいるんじゃないかと思って」
「そうです、ぼくは、えいむさんにおちゃを」
「だから、外にはいないよね?」

 私が言うと、スライムさんは、何度か目をぱちぱちさせていたけど、急に大きくとびあがった。

「そ、そうか……、ぼくがおちゃのよういをしているあいだ、そとにぼくはいない……! うっかりしてました……!」
「すごいうっかりをしたみたいだね?」
「もうてんでした」
 スライムさんは反省しているみたいだった。

「でもありがとう、すっかり冷えちゃった。お茶、もらってもいい?」
「はいどうぞ!」
 スライムさんがさっそくいれてくれたお茶は、果物のかおりのする、オレンジ色のきれいなお茶だった。

「わ、スライムさん!」
「おや?」
 スライムさんも飲んだら、オレンジと、スライムさんの元々の青色が混ざって、きれいな紫色になった。