昨日の夜から降り積もった雪が、景色をがらりと変えていた。
私とスライムさんは一緒になって、あっちこっち走りまわり、雪にたくさんのあとをつけて遊んでいた。
しばらくして、スライムさんは言った。
「えいむさん、ゆきがっせん、しませんか?」
「いいけど、私が勝っちゃうよ」
「ふっふっふ、しょうぶは、おわりまでわかりませんよ?」
スライムさんが笑う。
「だって、スライムさんはどうやって雪玉投げるの?」
「ふっふっふ」
スライムさんは、積もっている雪に顔を突っ込むと、もこもこと動いた。
顔を上げたスライムさんがこっちを向くのと同時に、雪玉がぽん、と私に飛んできた。
「わわっ」
「ふっふっふ」
スライムさんは笑って、また雪に顔をつっこむ。
見ていると、口の中に入れた雪を丸くかためて、ぽん、と出しているようだった。
「よーし」
私も急いで雪をつかんで丸める。
それっ、と投げると、ちょうど顔を上げたスライムさんに、ぼん、とあたった。
「やった」
「むむむ、やりましたね!」
スライムさんは雪を食べて丸める。
私は、こちらに背を向けてモゴモゴやっているスライムさんを見ながら雪玉を用意した。
スライムさんが口の中で玉を完成させる前に、ゆっくり移動する。
スライムさんが顔をあげる。
そのときには、さっきまでのところに私がいない。
探しているところを、私は横から雪玉をぶつけた。
「むほっ!」
スライムさんは驚きで雪玉を出してしまった。
「へっへっへ」
「やりましたね!」
スライムさんは雪に飛び込むようにして、新しく雪玉を用意する。
私はまたそっと移動してスライムさんが顔をあげるのを待った。
スライムさんが顔をあげる。
ぶつける。
私の勝利が決まったようだ。
何度かくり返していたら、スライムさんが、はっ、としたように言った。
「えいむさん、ずるいですよ!」
「ずるい?」
「ぼくがゆきだまをつくっているとき、すきだらけだとおもって、すきほうだいやってますね!」
「うん」
「みとめましたね! ひきょうです!」
「じゃあちょっと手加減するね」
「む」
「どんなふうにしたほうがいい?」
スライムさんは、ぷい、と横を向いた。
「なにもしなくていいです! てかげんなんて、いりません! ぼくとえいむさんは、そういうかんけいではないので!」
「でもそれだと、私が勝っちゃうよ」
私は作った雪玉をスライムさんに見せつける。
「むむむむー!」
スライムさんがぴこぴこ動く。
「別の遊びにする?」
「しません! じゃあ、ひっさつわざです!」
スライムさんは言うと、ちょっと高く積もってる雪の中にもぐっていってしまった。
出てこない。
「スライムさん?」
出てこない。
冷たい風が吹いて、私はすこし冷静になる。
ちょっと、いじわるだっただろうか。
あやまったほうがいいかな。
必殺技ってたぶん、たくさん口に雪を入れて、大きな雪玉を出そうとする、ということだと思うけど。
ほとんど飛ばなくて失敗、になると思うけど。
私はまわりを見た。
気も、道も、畑も、家も、みんなまっしろだ。
寒いけど、それが気にならないくらいきれいな景色だと思った。
「スライムさん、別の遊びしようか」
やっぱり返事がない。
「スライムさん?」
私は、スライムさんが飛び込んだあたりの雪を、掘っていっていた。
手が冷たくなる。
でもまだ、雪で遊んでいる気持ちの方が強くて気にならない。
どんどん掘っていった。
するとかたいものにぶつかった。
最初は石かなにかかと思ったけれども、それは。
「スライムさん!」
透明な体が透けて見えないほど、ぎっしりと体の中に雪が詰まったスライムさんだった。
体はふだんの倍以上の大きさになっていて、体はガチガチに固まっていた。
「スライムさん! スライムさん? スライムさんてば!」
目を開いたまま、まったく動かない。
この前スライムさんが凍ってしまったときには、魔法の石? があったのでどうにかなったけれども、私ではよろず屋になにがあるかわからないし、どうしよう。
私はまわりを見た。
そうだ。
時間がかかるかもしれないけれど、太陽の光に当たる場所に連れていけば、そのうち溶けるはず。
ちょっと離れたところに日が差している場所が見えた。
あそこだ。
重かったので、スライムさんを雪の上で転がしながら、急いで運ぶ。
急いで、急いで。
急いで……。
重、い……。
気づけばスライムさんだったものが、雪玉になっていた。
しまった、雪だるまになってしまった。
どうしよう。
このまま転がしたら、どんどん重くなってしまいそうだ。
でも、持っていくのは無理だし……。
しょうがない。
「えい! えい!」
私は体当たりをするように、雪玉を押した。
これで、ちょっと雪玉を小さくしながら、なんとか……。
そのときだった。
「え?」
雪玉が転がり始めた。
普段は坂になっているところなのに、雪のせいでわからなかったみたいだ。
行きたい方向とはちがう方へとゴロゴロゴロゴロ。
「ま、待って!」
しかもだんだん速くなっていく。
うそ。
待って!
雪玉はますます勢いを早めて、転がっていく。
ちょっと!
雪の上ではうまく走れない。
待って!
雪玉はますます速くなっていって、やがて転がっていった先の大きな木にぶつかって止まった。
「あ!」
思い切りぶつかった雪玉は、真っ二つに割れていた。
まさか!
私はバタバタと雪の中を走っていった。
すると、私がすぐ前まで到着したとき、割れた右側の雪玉の中からなにか落ちた。
中の雪でふくらんだスライムさんだ。
落ちた勢いで、かぽっ、と詰まっていた雪がごっそり出ていた。
大きな容器のようになったスライムさん。
「スライムさん?」
呼びかけてみると、スライムさんの目がゆっくりと私を見た。
「えーいーむーさーんー。いーやーあー、びっくーりー、しーまーしーたー」
まだ半分凍っている影響なのか、スライムさんはゆっくりと言った。
「だ、だいじょうぶなの?」
「はーいー。えーいーむーさーんーが、いーのーちーがーけーでー、たーすーけーてーくーれーたーのーでー」
「私はなにも」
「ほーんーとーうーにー、あーりーがーとーうー、ごーざーいーまーすー。えーいーむーさーんーはー、ぼーくーのー、ぼーくの。ぼくの。ぼくのおんじんです!」
だんだん溶けてきて、元にもどったようだ。
「私は別に」
「ぼくがまけずぎらいで、へんなことをして、こおってしまったのに、たすけてくれたんですね! ありがとうございます!」
「えっと、私こそごめんね」
「なにがですか?」
「えっと、実は、スライムさんをうっかり雪玉にしちゃって、それがゴロゴロ転がって、二つに割れたら、たまたまスライムさんが助かっただけで」
「えいむさん、なにをいってるんですか?」
たしかに、自分で言っていてよくわからなくなってきた。
私とスライムさんは一緒になって、あっちこっち走りまわり、雪にたくさんのあとをつけて遊んでいた。
しばらくして、スライムさんは言った。
「えいむさん、ゆきがっせん、しませんか?」
「いいけど、私が勝っちゃうよ」
「ふっふっふ、しょうぶは、おわりまでわかりませんよ?」
スライムさんが笑う。
「だって、スライムさんはどうやって雪玉投げるの?」
「ふっふっふ」
スライムさんは、積もっている雪に顔を突っ込むと、もこもこと動いた。
顔を上げたスライムさんがこっちを向くのと同時に、雪玉がぽん、と私に飛んできた。
「わわっ」
「ふっふっふ」
スライムさんは笑って、また雪に顔をつっこむ。
見ていると、口の中に入れた雪を丸くかためて、ぽん、と出しているようだった。
「よーし」
私も急いで雪をつかんで丸める。
それっ、と投げると、ちょうど顔を上げたスライムさんに、ぼん、とあたった。
「やった」
「むむむ、やりましたね!」
スライムさんは雪を食べて丸める。
私は、こちらに背を向けてモゴモゴやっているスライムさんを見ながら雪玉を用意した。
スライムさんが口の中で玉を完成させる前に、ゆっくり移動する。
スライムさんが顔をあげる。
そのときには、さっきまでのところに私がいない。
探しているところを、私は横から雪玉をぶつけた。
「むほっ!」
スライムさんは驚きで雪玉を出してしまった。
「へっへっへ」
「やりましたね!」
スライムさんは雪に飛び込むようにして、新しく雪玉を用意する。
私はまたそっと移動してスライムさんが顔をあげるのを待った。
スライムさんが顔をあげる。
ぶつける。
私の勝利が決まったようだ。
何度かくり返していたら、スライムさんが、はっ、としたように言った。
「えいむさん、ずるいですよ!」
「ずるい?」
「ぼくがゆきだまをつくっているとき、すきだらけだとおもって、すきほうだいやってますね!」
「うん」
「みとめましたね! ひきょうです!」
「じゃあちょっと手加減するね」
「む」
「どんなふうにしたほうがいい?」
スライムさんは、ぷい、と横を向いた。
「なにもしなくていいです! てかげんなんて、いりません! ぼくとえいむさんは、そういうかんけいではないので!」
「でもそれだと、私が勝っちゃうよ」
私は作った雪玉をスライムさんに見せつける。
「むむむむー!」
スライムさんがぴこぴこ動く。
「別の遊びにする?」
「しません! じゃあ、ひっさつわざです!」
スライムさんは言うと、ちょっと高く積もってる雪の中にもぐっていってしまった。
出てこない。
「スライムさん?」
出てこない。
冷たい風が吹いて、私はすこし冷静になる。
ちょっと、いじわるだっただろうか。
あやまったほうがいいかな。
必殺技ってたぶん、たくさん口に雪を入れて、大きな雪玉を出そうとする、ということだと思うけど。
ほとんど飛ばなくて失敗、になると思うけど。
私はまわりを見た。
気も、道も、畑も、家も、みんなまっしろだ。
寒いけど、それが気にならないくらいきれいな景色だと思った。
「スライムさん、別の遊びしようか」
やっぱり返事がない。
「スライムさん?」
私は、スライムさんが飛び込んだあたりの雪を、掘っていっていた。
手が冷たくなる。
でもまだ、雪で遊んでいる気持ちの方が強くて気にならない。
どんどん掘っていった。
するとかたいものにぶつかった。
最初は石かなにかかと思ったけれども、それは。
「スライムさん!」
透明な体が透けて見えないほど、ぎっしりと体の中に雪が詰まったスライムさんだった。
体はふだんの倍以上の大きさになっていて、体はガチガチに固まっていた。
「スライムさん! スライムさん? スライムさんてば!」
目を開いたまま、まったく動かない。
この前スライムさんが凍ってしまったときには、魔法の石? があったのでどうにかなったけれども、私ではよろず屋になにがあるかわからないし、どうしよう。
私はまわりを見た。
そうだ。
時間がかかるかもしれないけれど、太陽の光に当たる場所に連れていけば、そのうち溶けるはず。
ちょっと離れたところに日が差している場所が見えた。
あそこだ。
重かったので、スライムさんを雪の上で転がしながら、急いで運ぶ。
急いで、急いで。
急いで……。
重、い……。
気づけばスライムさんだったものが、雪玉になっていた。
しまった、雪だるまになってしまった。
どうしよう。
このまま転がしたら、どんどん重くなってしまいそうだ。
でも、持っていくのは無理だし……。
しょうがない。
「えい! えい!」
私は体当たりをするように、雪玉を押した。
これで、ちょっと雪玉を小さくしながら、なんとか……。
そのときだった。
「え?」
雪玉が転がり始めた。
普段は坂になっているところなのに、雪のせいでわからなかったみたいだ。
行きたい方向とはちがう方へとゴロゴロゴロゴロ。
「ま、待って!」
しかもだんだん速くなっていく。
うそ。
待って!
雪玉はますます勢いを早めて、転がっていく。
ちょっと!
雪の上ではうまく走れない。
待って!
雪玉はますます速くなっていって、やがて転がっていった先の大きな木にぶつかって止まった。
「あ!」
思い切りぶつかった雪玉は、真っ二つに割れていた。
まさか!
私はバタバタと雪の中を走っていった。
すると、私がすぐ前まで到着したとき、割れた右側の雪玉の中からなにか落ちた。
中の雪でふくらんだスライムさんだ。
落ちた勢いで、かぽっ、と詰まっていた雪がごっそり出ていた。
大きな容器のようになったスライムさん。
「スライムさん?」
呼びかけてみると、スライムさんの目がゆっくりと私を見た。
「えーいーむーさーんー。いーやーあー、びっくーりー、しーまーしーたー」
まだ半分凍っている影響なのか、スライムさんはゆっくりと言った。
「だ、だいじょうぶなの?」
「はーいー。えーいーむーさーんーが、いーのーちーがーけーでー、たーすーけーてーくーれーたーのーでー」
「私はなにも」
「ほーんーとーうーにー、あーりーがーとーうー、ごーざーいーまーすー。えーいーむーさーんーはー、ぼーくーのー、ぼーくの。ぼくの。ぼくのおんじんです!」
だんだん溶けてきて、元にもどったようだ。
「私は別に」
「ぼくがまけずぎらいで、へんなことをして、こおってしまったのに、たすけてくれたんですね! ありがとうございます!」
「えっと、私こそごめんね」
「なにがですか?」
「えっと、実は、スライムさんをうっかり雪玉にしちゃって、それがゴロゴロ転がって、二つに割れたら、たまたまスライムさんが助かっただけで」
「えいむさん、なにをいってるんですか?」
たしかに、自分で言っていてよくわからなくなってきた。