「こんにちは」
「いらっしゃいませ!」
 今日もスライムさんがカウンターの上に現れた。

 なんだかスライムさんがにやにやしている。
「どうしたの?」
「わかってますよ! やくそうがほしい、とみせかけて、ほかのものをほしがるさくせんですね!」
「たしかに、今日は薬草を買いに来たわけじゃないけど」
「やっぱり!」
 なんだか、スライムさんが私のたくらみを見抜いたみたいになっている。なにも考えてないのに。

「ええと、今日は料理に使うナイフがほしいんだけど、あるかな」
「ふふふ、おまかせください」
 スライムさんが口を斜めにするように笑っていた。不気味に見える表情だったけれど、スライムさんなので、だんだんおもしろい顔に見えてくる。

「おすすめのものがありますよ」
 スライムさんはカウンターの奥におりる。
 姿が見えなくなると、なにかを、ズズ、ズズ、と引きずっている音だけが聞こえた。

「ちょっと、ふう、ふう、まって、ふう、ふう、ください、ふう、ふう」
「私も手伝おうか?」
「へいきですので、ふう、ふう」

 カウンターの横の小さな木戸を開いて、スライムさんが出てきた。体で巻きこむようにして、一本の剣を引きずってきた。

「こちらです。ふう」
 剣は、黒いさやに入っている。見ているだけで背筋がぞくぞくするような、ちょっと気持ちの悪い剣だった。私の身長よりも大きい。

「これは?」
「こくりゅうのけんです! すごくきれます!」
 スライムさんは言った。
「いらないけど」
「ふふふ」
 スライムさんが不敵に笑う。

「わかってませんね、らいらさん」
「わかってないのはスライムさんだよ。私はエイム」
「エイムさん。よくきいてくださいね」
「はい」
「だいは、しょうをかねるんです!」


「だいは、しょうをかねるんです!」
 私の反応がなかったからか、スライムさんはもう一回言った。
「はあ」

「ふふふ。えいむさんは、ことわざ、というものをしらないようですね。いいですか? おおきなものは、ちいさなもののかわりにもなる、ということです。つまり、こくりゅうのけんは、ないふよりも、やくにたつんです!」
 スライムさんは言った。堂々としたものだった。

「でも、果物の皮をむいたり、料理に使ったりしたいんだけど。これじゃ、大きすぎるし、片手で持てないと思うよ。使えないよ」
「え?」
「これじゃ、大は小を兼ねないよ」
「だいは、しょうをかねない……?」
 スライムさんは、体を四角くした。

「ぼく、ほんでべんきょうしたんですけど」
「ことわざって、かならず正しいわけじゃないんだって」
「え、ただしくもないのに、ただしいようないいかたをしてるんですか?」
「そうみたい」
「はんざいしゃみたいですね」
 スライムさんは言った。
「そうかなあ」
 そんなことはないと思うけど、スライムさんが言っていることだけ総合すると、そんなふうにも思えてくる。

「でも、ことわざは、いつも正しいわけじゃないって、みんな知ってると思うよ」
「みんなただしくないっておもいながら、さんこうにしてるんですか?」
「うん」
「なんだか、あたまがいたくなってきました……」
 スライムさんは体をゆらしていた。
 私も、なんだか頭がもやもやしてきた。正しくないことも多いのに、参考にするって、変だ。
 どう考えたらいいんだろう。

「スライムさん、今日は帰るね」
「はい、ぼくもきょうはしごとをやめます」
 スライムさんは私と一緒に外に出てきて、看板をひっくり返して、おやすみ、という表示にした。