今日のスライムさんは、私がお店に入ったときにはもう、いそがしそうに品物とあちらこちらへと運んでいた。

「こんにちは」
「えいむさん、いらっしゃいませ!」
 あいさつのとき一回立ち止まったけれども、またスライムさんはせかせかと動いている。

「いそがしそうだね」
「ぼくもたまには、これくらいのしごとをしますよ! だれがたまにはですか!」
「私、なにも言ってないよ!」
 絶好調みたいだ。

「私も手伝う?」
「えいむさんがさわると、あぶないものもあるので、やめたほうがいいですよ!」
「スライムさんは平気なの?」
「ぼくは、すごいので!」
 大ざっぱな話だと思うけど、実際、スライムさんはすごいところもあるので、なんともいえない。

「そっか。じゃあ、帰ろうかな」
「帰らなくても!」
「でも、じゃまでしょ?」
「そんなことはありません! どうかごゆっくり!」
「そう?」
「どうぞ!」
 と、スライムさんが引きずってきた小さな椅子に私は座った。

 でも、せかせか動いているスライムさんを見ていると、なんだか居心地の悪さを感じる。
 そんな私に気づいたように、スライムさんが言った。
「そうだ、おひまなら、しりとりでも、しましょうか! ぼくも、かたづけながらでも、できますし!」

「しりとり……?」
「ことばの、おしりをとるあそびです」
「言葉のお尻……?」
 私は、命が吹き込まれた文字が動き出して、自分のお尻を取り外している様子を想像した。

「じゅんばんに、ことばを、いいあいます! すらいむ、だったら、つぎのひとは、む、からはじまる、ことばをいいます!」
「ふうん……?」
「だから、よろずやだったら、や、からはじまることばです!」
「屋根、とか?」
「そうです! そしたらぼくは、ねずみ、ですね!」
「なるほど、そういうことね。おもしろそうかも」
 新感覚の遊びだった。

「やりましょう! さいしょは、しりとりの、り、からです」
「り? 私から?」
「はい」
「えーっと……。りんご」
「じゃあぼくは、ごりら、です」
「ごりらって、なに?」
「そういういきものが、いるんです! きょだいかした、にんげんみたいないきものです!」
「そう。じゃあ……、ラッパ」
「ぱ、ですね? それなら、ぱんだ、です!」
「ぱんだ?」
「ぱんだっていういきものが、いるんです! しろとくろの、くまです!」
「白黒のクマ?」

 私は、白と黒でシマ模様になっているクマを思い浮かべた。
「なんか、ぶきみだね」
「かわいいですよ!」
「かわいいの?」
 まあ、かわいいというのは、人それぞれだから……。

「じゃあ私は、だ……? だ、ってなんだろう。だ、だ、だ……。台ふきん、とか」
「あ、いけませんよえいむさん!」
「え?」
「さいごが、ん、だとまけなんです!」
「どうして? あ、そうか」
 ん、から始まる言葉がないんだ、きっと。

「じゃあ、えーと私の負け?」
「それなら、だ、から、あたらしくはじめますか?」
「じゃあそうする」
「だ、ですね? だちょう、です!」
「だちょう?」
「とりのなまえです! とべないんですけどね!」
「えっと、スライムさん。飛べない鳥ってなに?」
「すごくあしがはやいんですけど、とべないんです」
「それは鳥なの?」
「はい! せなかにのったら、おちてしまいましたけど」
「乗れるの?」
「えいむさんでも、のれるとおもいますよ!」
「ふうん……。ねえスライムさん」
「なんですか?」
「しりとりより、動物の話が聞きたい。いい?」
「いいですよ!」

 私は片付けをしているスライムさんを見ながら、スライムさんが知っているいろいろな動物の話を聞いた。

「いろんな動物がいるんだね」
「そうなんです!」
「でも、本当は、キリンていうのはいないんだよね?」
「いますよ! くびが、からだよりもずっとながいんです!」
「そっかー」
「しんじてませんね!」
「信じてるー」
「えいむさん!」