「こんにちはー」
「いらっしゃいませ!」
よろず屋さんに入ると、いつものようにスライムさんがカウンターの上に現れた。
「おや、えいむさん。なにを、おもちですか?」
「これと同じ大きさのフライパン、ないかな、と思って」
私は手さげからフライパンを出してカウンターに置いた。
「ちょっと、取っ手のところが壊れてきてて」
「あー、いけませんねー。いけませんねー」
スライムさんがいろいろな角度からフライパンを見ている。
「お母さんが気に入ってる大きさなんだけど、不便だって」
「いけませんねー」
「ある?」
「あります!」
スライムさんはぴょん、とカウンターを降りて奥に行くと、すぐに、小さな台車を押してもどってきた。
フライパンがひとつ、のっている。
私は手にとってみた。
「どうですか!」
「うん! ちょうどいい。それに前のものよりもちょっと軽くて持ちやすい」
「ちょっと、いいきんぞくでできてますので!」
「ちょっといい金属?」
「なのに、おねだんすえおき! おどろきです!」
「そうなんだ。じゃあこれ買って帰ろうかな」
「もう帰っちゃうんですか?」
「え? そんなことないけど」
「じゃあ、じゃあ、なぞなぞをしましょう!」
スライムさんはぴょんぴょんとびはねながら言った。
「なぞなぞ?」
「はい! いいなぞなぞを、おもいだしました!」
「どんなの?」
「いきますよ。こほん」
スライムさんは、じっと私を見た。
「ぱんは、ぱんでも、たべられないぱんは、なんでしょうか!」
「……言っちゃっていいの?」
私はフライパンを見た。
「はい!」
スライムさんがそういうつもりなら、私も一発で答えよう!
「フライパン!」
「せいかいです! あとはなんですか!」
「え……?」
あと?
「フライパンじゃないの?」
「ほかにも、ありますよ?」
「どんな?」
「じゃあ、ちょっとまっててください! こんなぱんが、あるのです!」
スライムさんはまた奥に行くと、台車に箱をのせてもどってきた。
「こちらです!」
箱の中にはパンがいくつか入っていた。
だいたい手のひらくらいの大きさの、丸いパンだ。
「パンだね」
私が手にとってみようかと思ったらスライムさんがぶつかってきた。
「あぶないですよ! たべられませんよ!」
「え? え?」
私がぽかんとしていると、スライムさんが解説を始めた。
「まずこの、いちばん、ちいさいぱん。これは、どくぱんです」
「毒パン」
「たべると、みっかみばん、くるしみます」
「三日三晩、苦しむ」
「そしてこちら。ちょっとほそながいですね? これは、どくばりぱんです」
「毒針パン」
「たべると、なかの、こまかいはりがくちのなかにささって、みっかみばん、くるしみます」
「三日三晩、苦しむ」
「そしてこの、まるっこいぱん。これは、どくまほうぱんです」
「毒魔法パン」
「たべると、どくまほうがかかって、みっかみばん、くるしみます」
「三日三晩、苦しむ」
「そしてこちらの、ちょっとしかくいぱん」
「ちょっとスライムさん」
「なんですか?」
スライムさんが不思議そうに私を見た。
「食べられないパンばっかりで、答えきれないよ」
「ふっふっふ」
スライムさんが不敵に笑う。
「えいむさん、ひっかかりましたね?」
「え?」
「このぱんは、たべようとおもえば、たべられます! ということは、たべられないのは、ふらいぱんだけです! ひっかけなぞなぞでした!」
スライムさんは、勝ちほこったような笑顔になった。
「そう……」
「あれ? なっとくいきませんか?」
「うーん。病気になったりするんでしょ? それって、食べられないものなんじゃないの?」
「たべようとおもえば、たべられますよ!」
「うーん。でも、食べるのって、おいしいから食べるとか、体にいいから食べるんじゃない?」
「からだにわるいものは、たべませんか?」
そう言われると私も、あまいものを食べすぎてしまったりすることもある。
途中からは体に悪いと思っていても、食べているかもしれない。
「体に悪くても、おいしければ食べるかもしれない……。そっか……。じゃあ、スライムさんが正しいのかもしれない……」
「えいむさん……?」
口に入れて、飲み込めるなら、食べることだと思っていながら、毒を、毒だとわかっているなら、食べるではないと思っていた。
でも食べられる。
口に入れるだけでいいなら、フライパンを細かく、粉のようにして飲み込んだら、食べていることになるのだろうか。
とすると、フライパンも食べられる。
口に入れたものが、自分の体をつくる、ということならどうだろう。
なら、毒なら?
毒針は吸収しないから、食べるはちがう?
でも、毒針の毒の成分を食べている、ということなら、食べているような気もする。
魔法は?
食べる?
何度も考えていたら、食べる、という言葉も変な言葉に思えてきた。
たべる?
たべる。
たべる、たべる、たべる。
変な言葉だ。
「えいむさん?」
「たべるって、なんだろう……」
「えいむさん? どうしました?」
「たべる……」
「えいむさん、これをどうぞ!」
スライムさんが持ってきてくれたのは、薬草だった。
「うん?」
「たべてください! おいしいですよ!」
「うん」
私は薬草を口に入れた。
さわやかな味がして、一回かむごとに、心が落ち着くような気がした。
「薬草はおいしいね」
「そうでしょう!」
「たべるって、おいしいってことなのかな……」
たべるって、そういうことなのか……。
「おいしくないものも、たべられますよ!」
「……そうだね」
またわからなくなってしまった。
たべるって、なんだろう……。
考えながら帰ったら、よろず屋にフライパンを忘れた。
「いらっしゃいませ!」
よろず屋さんに入ると、いつものようにスライムさんがカウンターの上に現れた。
「おや、えいむさん。なにを、おもちですか?」
「これと同じ大きさのフライパン、ないかな、と思って」
私は手さげからフライパンを出してカウンターに置いた。
「ちょっと、取っ手のところが壊れてきてて」
「あー、いけませんねー。いけませんねー」
スライムさんがいろいろな角度からフライパンを見ている。
「お母さんが気に入ってる大きさなんだけど、不便だって」
「いけませんねー」
「ある?」
「あります!」
スライムさんはぴょん、とカウンターを降りて奥に行くと、すぐに、小さな台車を押してもどってきた。
フライパンがひとつ、のっている。
私は手にとってみた。
「どうですか!」
「うん! ちょうどいい。それに前のものよりもちょっと軽くて持ちやすい」
「ちょっと、いいきんぞくでできてますので!」
「ちょっといい金属?」
「なのに、おねだんすえおき! おどろきです!」
「そうなんだ。じゃあこれ買って帰ろうかな」
「もう帰っちゃうんですか?」
「え? そんなことないけど」
「じゃあ、じゃあ、なぞなぞをしましょう!」
スライムさんはぴょんぴょんとびはねながら言った。
「なぞなぞ?」
「はい! いいなぞなぞを、おもいだしました!」
「どんなの?」
「いきますよ。こほん」
スライムさんは、じっと私を見た。
「ぱんは、ぱんでも、たべられないぱんは、なんでしょうか!」
「……言っちゃっていいの?」
私はフライパンを見た。
「はい!」
スライムさんがそういうつもりなら、私も一発で答えよう!
「フライパン!」
「せいかいです! あとはなんですか!」
「え……?」
あと?
「フライパンじゃないの?」
「ほかにも、ありますよ?」
「どんな?」
「じゃあ、ちょっとまっててください! こんなぱんが、あるのです!」
スライムさんはまた奥に行くと、台車に箱をのせてもどってきた。
「こちらです!」
箱の中にはパンがいくつか入っていた。
だいたい手のひらくらいの大きさの、丸いパンだ。
「パンだね」
私が手にとってみようかと思ったらスライムさんがぶつかってきた。
「あぶないですよ! たべられませんよ!」
「え? え?」
私がぽかんとしていると、スライムさんが解説を始めた。
「まずこの、いちばん、ちいさいぱん。これは、どくぱんです」
「毒パン」
「たべると、みっかみばん、くるしみます」
「三日三晩、苦しむ」
「そしてこちら。ちょっとほそながいですね? これは、どくばりぱんです」
「毒針パン」
「たべると、なかの、こまかいはりがくちのなかにささって、みっかみばん、くるしみます」
「三日三晩、苦しむ」
「そしてこの、まるっこいぱん。これは、どくまほうぱんです」
「毒魔法パン」
「たべると、どくまほうがかかって、みっかみばん、くるしみます」
「三日三晩、苦しむ」
「そしてこちらの、ちょっとしかくいぱん」
「ちょっとスライムさん」
「なんですか?」
スライムさんが不思議そうに私を見た。
「食べられないパンばっかりで、答えきれないよ」
「ふっふっふ」
スライムさんが不敵に笑う。
「えいむさん、ひっかかりましたね?」
「え?」
「このぱんは、たべようとおもえば、たべられます! ということは、たべられないのは、ふらいぱんだけです! ひっかけなぞなぞでした!」
スライムさんは、勝ちほこったような笑顔になった。
「そう……」
「あれ? なっとくいきませんか?」
「うーん。病気になったりするんでしょ? それって、食べられないものなんじゃないの?」
「たべようとおもえば、たべられますよ!」
「うーん。でも、食べるのって、おいしいから食べるとか、体にいいから食べるんじゃない?」
「からだにわるいものは、たべませんか?」
そう言われると私も、あまいものを食べすぎてしまったりすることもある。
途中からは体に悪いと思っていても、食べているかもしれない。
「体に悪くても、おいしければ食べるかもしれない……。そっか……。じゃあ、スライムさんが正しいのかもしれない……」
「えいむさん……?」
口に入れて、飲み込めるなら、食べることだと思っていながら、毒を、毒だとわかっているなら、食べるではないと思っていた。
でも食べられる。
口に入れるだけでいいなら、フライパンを細かく、粉のようにして飲み込んだら、食べていることになるのだろうか。
とすると、フライパンも食べられる。
口に入れたものが、自分の体をつくる、ということならどうだろう。
なら、毒なら?
毒針は吸収しないから、食べるはちがう?
でも、毒針の毒の成分を食べている、ということなら、食べているような気もする。
魔法は?
食べる?
何度も考えていたら、食べる、という言葉も変な言葉に思えてきた。
たべる?
たべる。
たべる、たべる、たべる。
変な言葉だ。
「えいむさん?」
「たべるって、なんだろう……」
「えいむさん? どうしました?」
「たべる……」
「えいむさん、これをどうぞ!」
スライムさんが持ってきてくれたのは、薬草だった。
「うん?」
「たべてください! おいしいですよ!」
「うん」
私は薬草を口に入れた。
さわやかな味がして、一回かむごとに、心が落ち着くような気がした。
「薬草はおいしいね」
「そうでしょう!」
「たべるって、おいしいってことなのかな……」
たべるって、そういうことなのか……。
「おいしくないものも、たべられますよ!」
「……そうだね」
またわからなくなってしまった。
たべるって、なんだろう……。
考えながら帰ったら、よろず屋にフライパンを忘れた。