「こんにちはー」
 私はよろず屋に入ると、すぐ戸を閉めた。

「こんにちは、えいむさん! どうかしましたか?」
「ちょっと風が冷たくて」
 急にこの数日、空気が冷たくなってきていた。
 昨日の夜は、急いで毛布を出さないと眠れなかった。

「そうですねえ。ちょっと、ひえますねえ」
「あったかい日もあるから、困るよね」
 寒いなら寒い日ばかりになってくれれば楽なのに。
 なんて思いながらも、本当に寒い日ばっかりになったら嫌なんだけど。

「じつは、えいむさんがよろこぶとおもって、こんなものをよういしました!」
 スライムさんは、カウンターの上に置いてある箱を、ぽんぽん、と押した。
「これは?」
「あけてみてください!」
「うん」
 箱を開けると、中にはお札のお金がぎっしり入っていた。

「わっ、ん?」
 でもよく見ると、一般的に使われているお札と、ちがう絵柄だ。
 スライムさんが描いてある。

「あ、それじゃなかったです」
 スライムさんはカウンターを降りると、ずるずると、別の箱を押してきた。

「そっちは、しゅみです」
「趣味?」
 いったいなにをしようとしているのだろうか。
「これです」
 スライムさんは自分でフタをくわえて開けた。

 中には、いも、がぎっしり入っていた。

「いも?」
「ほくほくになります!」
「ほくほく?」
「やきいもです!」
「ああ!」


 私たちはお店を飛び出すと、裏の木の下に落ちている葉っぱを集めた。
 おうどいろの葉っぱは、ほうきで集めると、カサカサ音がして、すっかりかわいている。
 庭の土の部分に集めると、こんもりと山になった。

「集まったね」
「はい! もやしましょう!」
「うん。あ、でも、私たちだけで火を使ってもいいのかな」
 私は急に気になった。
 子どもたちだけで火を使うのは、家で禁じられていたことだからだ。

「えいむさん? ぼくをなんだとおもっているんですか?」
「え?」
「ぼくは、こどもではないです!」
「スライムさんって、大人なの?」
「えいむさん。ぼくはすらいむですよ? こどもとか、おとなとか、そういうちいさなことは、どうでもいいと、おもいませんか?」
「たしかに」

 あらためてそう言われてみると、スライムさんなら、人間の小さなきまりに縛られる方がおかしいような気がしてきた。
「ひは、これでつけます」
 スライムさんが用意したのは、火の魔法石が埋め込まれたという杖だった。

 私たちは芋を葉っぱの下の方に入れた。
 それから、スライムさんの前で杖を支えて立たせていると、スライムさんがまとわりつくようにして持った。

「つえをもって、ねんじるだけで、ひがつきます!」
「わかった」
「では、いきます!」
「うん」
「はっ!」

 スライムさんが杖をちょっと動かしながら、気合の入った声をあげた。

 すると。

「わっ!」
「わわっ!」

 こんもりと積み上げた葉っぱの山が、爆発した。


 私は尻もちをついてしまった。
 スライムさんは後ろ向きにころころ転がって、よろず屋の建物にあたって止まった。

「スライムさん、だいじょうぶ!」

 スライムさんを抱き起こす。
 目を回していたけれども、はっとして、私を見た。
「び、びっくりしましたね……!」
「スライムさんだいじょうぶ?」
「ぼくはへいきです! えいむさんは?」
「私も平気」
「よかったです!」

 スライムさんは、ぴょんっ、とはねてみせた。
 どうやら本当に平気そうだ。

「なにがあったの?」
「つえを、まちがえたみたいです」

 どうやら、火の杖ではなく、爆発の杖だったらしい。
「危ないでしょ!」
「もうしわけない……」
 スライムさんが、ころり、と前に倒れ、顔を地面につけた。
 土下座のつもりかもしれない。

「今回はケガもなかったからいいけど、これからは気をつけてね」
「はい! さいあくのばあい、えいむさんだけでも、ふっかつさせます!」
「スライムさんも復活して!」

「あれ?」
 私はふと、茶色い、こげたようなものが草の上に落ちているのが目に入った。

 近づいて、拾ってみる。
「あちち」
 これ、いもだ。
 焼けてる?
 二つに割ってみると、中は金色みたいな黄色で、ほくほくだった。

「スライムさん! 焼けてる!」
「ええ!?」
 ぴょんぴょんとやってきたスライムさんは、半分に割ったいもを受け取った。

「すごい! やけてます!」
「ね」
「たべてみましょうよ!」
「うん。じゃ、いっしょにね。せーの」
 ぱくり。

 おいしい。
 あつあつで、たくさんは口に入れられないけれども、ほくほくしてあまい。
 はふはふと食べているだけで、おいしいし、なんだか楽しい。
 それに、いもを持っていると手があったかい。

「あー、あったかくてきもちいですね、えいむさん!」
「うん。うん?」
 気持ちいい?

 見ると、スライムさんは、いもを体の中に取り込んでいた。
 スライムさんの、青みがかった透明な体の中に、いもが浮かんでいる。

「いやー、やきいもって、いいですねー!」
「う、うん」
「またやりましょうね!」
「うん。あ、爆発はだめだよ?」
「わかってます! おもいっきり、もやします!」
「そんなに燃やすのもだめ! やっぱり、子どもだけで火を使ったらだめだね」
「えいむさん、ぼくをなんだと」
「スライムさん?」
 私はスライムさんをじっと見た。
「……きをつけます」