今日も暑い。
町からすこし離れたところで、なにかを燃やすための大きな魔法を使っている、という話も聞こえてきたけれども、どれもよくわからない話だった。
私にわかるのは、今日も暑いということだけだ。
「あれ? こんにちは」
よろず屋の前にはスライムさんがいた。
「こんにちは!」
「どうしたの?」
「きょうは、やきゅう、をやろうとおもいまして」
「やきゅう?」
「そうです。はやっているんですよ!」
「どこで?」
「どこか、はもんだいではありません!」
スライムさんは言った。
「これを使うの?」
スライムさんの前には、木の棒と、ボールがあった。棒は私の腕くらいの長さ、ボールは私の握った手、よりもちょっとだけ大きいかな。
「そうです!」
「どうやるの?」
「それは、ええと、そうです!」
「じゃなくて、どうなるの?」
「ふっふっふ」
スライムさんは不敵に笑った。
どうやらよくわからないらしい。
そして、ボールを木の棒で打つ遊びだ、ということはたしからしい。
「打てばいいの?」
「そうです!」
「じゃあ、やってみるね」
私は、地面に置いてあるボールを、棒の先の方で軽く打ってみた。
ころころ、とボールが転がっていって、止まる。
「これでいいの?」
「そうです! 打てばいいんです!」
私は、転がしたボールを自分で拾ってきた。
「これを打つ」
また打った。
転がる。
自分で拾ってくる。
「……これは、なにがおもしろいの?」
「ぼくにきかれてもこまります。たのしみというのは、ひと、それぞれですから」
「ルールはあるの?」
「ぼくにきかれてもこまります。るーるというのは、ひと、それぞれですから」
それは人それぞれだと困るのではないだろうか。
でも。
私は、ボールを打って転がす。
全然つまらないというわけではない。
なにか、おもしろくなりそうなきっかけがあるような気がするのだけれども……。
「えい。あ」
強めに打ったら、さっきまでよりも遠くへ転がっていったボールが、道のへこみにちょうど収まった。
「お、えいむさん、ぴったりですね」
「ね」
「なんだか、うまいですね!」
「うまいと思う?」
「はい!」
「実は、私も思った」
穴にぴったり入るとおもしろい……。
まてよ。
これが、やきゅう……?
「スライムさん、いくよ!」
「はい!」
私は、地面に置いたボールを打つ。
ぽーん、とちょっと浮いて打ち出されたボールは、よろず屋の裏庭をぽん、ぽん、とはずんでいって、事前に私が掘った穴の横で止まった。
「あー、おしいですねー!」
スライムさんが悔しがった。
私は穴の横まで行って、こん、と軽く打って穴に入れた。
「また三回だったね」
「にかい、でいれたいですね!」
やきゅう、というのはきっと、目標の穴に向かって、できるだけ少ない回数で打つ遊びなのではないか。
三回より二回、二回より一回。
打ったボールをいかに思い通りにするか、それを競う遊びなんじゃないか。
そう思ってみると、遊びとして、なんだか納得できた。
私はまたよろず屋の裏の水場までボールを持っていって、棒を構える。
「さっきは、ここにうつとよかったですよ!」
スライムさんがぴょんぴょんはねて、目標を教えてくれた。
「うん、いくよ! あ」
変な当たり方をしたせいで、ぽーん、とボールが高く上がってしまった。
スライムさんが指示した場所をこえて、薬草の生えているあたりもこえて。
それから、変なはねかえりかたをして、もどってきた。
すると、走って落下地点を見に行ったスライムさんが興奮していた。
「えいむさん! すごいです!」
見に行ってみると、穴にすっぽりとボールが入っていた。
「すごいね」
「えいむさんは、やきゅう、のてんさいです!」
「えへへ」
すっかり、やきゅう、を理解した私たちは、協力して、一回で入れられるよういろいろな工夫をして楽しんだ。
「ところで、暑いね」
「そうですね!」
「日陰でやろう」
「そうですね!」
裏の、ちょっと林になっているところでやってみると、木があるのでかんたんにはできず、また新しい楽しさがあった。
町からすこし離れたところで、なにかを燃やすための大きな魔法を使っている、という話も聞こえてきたけれども、どれもよくわからない話だった。
私にわかるのは、今日も暑いということだけだ。
「あれ? こんにちは」
よろず屋の前にはスライムさんがいた。
「こんにちは!」
「どうしたの?」
「きょうは、やきゅう、をやろうとおもいまして」
「やきゅう?」
「そうです。はやっているんですよ!」
「どこで?」
「どこか、はもんだいではありません!」
スライムさんは言った。
「これを使うの?」
スライムさんの前には、木の棒と、ボールがあった。棒は私の腕くらいの長さ、ボールは私の握った手、よりもちょっとだけ大きいかな。
「そうです!」
「どうやるの?」
「それは、ええと、そうです!」
「じゃなくて、どうなるの?」
「ふっふっふ」
スライムさんは不敵に笑った。
どうやらよくわからないらしい。
そして、ボールを木の棒で打つ遊びだ、ということはたしからしい。
「打てばいいの?」
「そうです!」
「じゃあ、やってみるね」
私は、地面に置いてあるボールを、棒の先の方で軽く打ってみた。
ころころ、とボールが転がっていって、止まる。
「これでいいの?」
「そうです! 打てばいいんです!」
私は、転がしたボールを自分で拾ってきた。
「これを打つ」
また打った。
転がる。
自分で拾ってくる。
「……これは、なにがおもしろいの?」
「ぼくにきかれてもこまります。たのしみというのは、ひと、それぞれですから」
「ルールはあるの?」
「ぼくにきかれてもこまります。るーるというのは、ひと、それぞれですから」
それは人それぞれだと困るのではないだろうか。
でも。
私は、ボールを打って転がす。
全然つまらないというわけではない。
なにか、おもしろくなりそうなきっかけがあるような気がするのだけれども……。
「えい。あ」
強めに打ったら、さっきまでよりも遠くへ転がっていったボールが、道のへこみにちょうど収まった。
「お、えいむさん、ぴったりですね」
「ね」
「なんだか、うまいですね!」
「うまいと思う?」
「はい!」
「実は、私も思った」
穴にぴったり入るとおもしろい……。
まてよ。
これが、やきゅう……?
「スライムさん、いくよ!」
「はい!」
私は、地面に置いたボールを打つ。
ぽーん、とちょっと浮いて打ち出されたボールは、よろず屋の裏庭をぽん、ぽん、とはずんでいって、事前に私が掘った穴の横で止まった。
「あー、おしいですねー!」
スライムさんが悔しがった。
私は穴の横まで行って、こん、と軽く打って穴に入れた。
「また三回だったね」
「にかい、でいれたいですね!」
やきゅう、というのはきっと、目標の穴に向かって、できるだけ少ない回数で打つ遊びなのではないか。
三回より二回、二回より一回。
打ったボールをいかに思い通りにするか、それを競う遊びなんじゃないか。
そう思ってみると、遊びとして、なんだか納得できた。
私はまたよろず屋の裏の水場までボールを持っていって、棒を構える。
「さっきは、ここにうつとよかったですよ!」
スライムさんがぴょんぴょんはねて、目標を教えてくれた。
「うん、いくよ! あ」
変な当たり方をしたせいで、ぽーん、とボールが高く上がってしまった。
スライムさんが指示した場所をこえて、薬草の生えているあたりもこえて。
それから、変なはねかえりかたをして、もどってきた。
すると、走って落下地点を見に行ったスライムさんが興奮していた。
「えいむさん! すごいです!」
見に行ってみると、穴にすっぽりとボールが入っていた。
「すごいね」
「えいむさんは、やきゅう、のてんさいです!」
「えへへ」
すっかり、やきゅう、を理解した私たちは、協力して、一回で入れられるよういろいろな工夫をして楽しんだ。
「ところで、暑いね」
「そうですね!」
「日陰でやろう」
「そうですね!」
裏の、ちょっと林になっているところでやってみると、木があるのでかんたんにはできず、また新しい楽しさがあった。