スライムのよろず屋さん ~すごいけどすごくないお店に今日も遊びに行きます~

「こんにちは」
 よろず屋に入っていくと、もうスライムさんは私を見つけていた。
 でもいつもとちょっとちがっていた。

「いらっしゃいませ……」
 スライムさんは静かに言った。
「今日は薬草ください」
「どうぞ……。いくつですか……」
 そう言って、変な笑顔をうかべる。

「二つ、おねがいします」
 私は14ゴールドをカウンターに置いた。

「そのきんがくで、いいんですか……?」
「あれ? ひとつ7ゴールドじゃなかったっけ?」
「あってますよ……。でも、むりょうで、てにいれたくないですか……?」
 変な笑顔。

「有料でいいよ」
「え……。でも……、むりょうがいいでしょう……?」
「有料でいいよ」
 私が言うと、スライムさんはいつもの顔にもどった。

「むりょうがいいっていってください!」
「ええ?」
「むりょうがいい、それにおかねがほしいっていってください!」
「……無料がいいな、それにお金がほしいな」
「ふっふっふ。えいむさんも、わるいひとですねえ……」
 スライムさんが変な笑い方にもどった。
 なにを言っているんだろう。

「これをどうぞ……」
 スライムさんが出してきたのは、コインだった。

「これは?」
「うらかおもてか、あてっこをしましょう……」
 スライムさんは言った。

「あてられたら、えいむさんの、やくそうのだいきんは、なしにします……。でも、はずれたら、2ばい、はらってください……。いちかばちかの、かけごとですよ……」
 スライムさんは変な笑い方をした。
「え、やだよ」
「……ど、どうしてですか?」
「だって倍も払えないもん。それに、ちゃんとお金を払いに来たんだよ」
「でも、せっかく、むりょうになるかもしれないのに……」
「払うよ」
「うーん……」

 スライムさんは、だんだん平らになっていった。
「わかりました。だったら、あたったらむりょう、はずれてもそのままでいいです……」
「それじゃスライムさんが損するだけでしょ」
「そうです……」
「だめだよ」
 スライムさんは、ちょっとスキを見せるといいかげんな経営をしようとする。

「じゃあわかった。1ゴールドで遊ぼう。それならいい?」
「1ごーるどをかけて、うらか、おもてか、あてるわけですか……」
「うん」
「しょうがない、わかりました……。えいむさんとは、しらないなかではありませんので……」
「どうも」
 なんだか私がお願いしたみたいになっている。

「では」
 スライムさんは、どこからか出したメガネをかけた。
 レンズが黒い。
「それ見えるの?」
「はい。そのみちのひとに、みえるでしょう……?」
 スライムさんは自慢げにしていた。

「さて、では」
 スライムさんは、コインをカウンターに落とす。
 音を立ててはねたコインはカウンターの上でくるくる回った。
 そのとき、スライムさんが横にあった布を、コインの上からかける。

「さあおねえちゃん、うらかな? おもてかな?」
 スライムさんが、さっきまでとはまたちょっとちがう感じの、変な笑い方をする。
「じゃあ、表」
「ほんとうにいいのかい?」
「いいよ」
「そうかい……。じゃあ、これだ!」
 スライムさんは布をくわえて、ぱっ、とめくった。

 コインは表だった。

「やるじゃないかおねえちゃん。ふふ。どうだい、もうひとしょうぶ、していかないかい?」
「もういい」
「ん? どうだい、もうひとしょうぶ、していかないかい?」
「もういいって」
「どうだい、もうひとしょうぶ、していかないかい?」
 スライムさんは悲しそうに言った。

「……はい」

 スライムさんはもう一回コインを回転させ、布をかけた。
「さあさあ、うらかな? おもてかな?」
「じゃあ裏」
「ふっふっふ。ほんとうに」
「いいよ」
「そうかい……。はいっ!」
 スライムさんがコインをめくる。

 裏だった。

「くー、つよいね、おねえちゃん!」
「はあ」
「どうだい、もうひとしょうぶ、していかないかい?」
「もういいよ」
「どうだい、もうひとしょうぶ」
「わかりました!」



「……じゃあ、表」
 スライムさんが布をめくる。
 表だった。

「や、や、やるじゃないか……」
 スライムさんはフラフラしていた。
 もう私は二十回も勝ち続けていた。  
「もうやめようよ」
「ど、どうだい……、もうひとしょうぶ……、していかないかい……?」
 スライムさんは息も絶え絶えだった。

「じゃあ、表」
「いくよ……」
 また表だった。
 もう十回連続で表が出ている。
 こういう勝負だから、わざと負けようにも負けられない。

「あの、一回、うちに薬草置いてきたいんだけど」
「おねえちゃん、かちにげかい? そいつはよくねえなあ……」
 スライムさんのこの口調は、いったい誰なんだろう。
「あとでまた来るから」
「おねえちゃん、かちにげかい? そいつは……」
 スライムさんが私をじっと見てくる。
「もう、わかったわかった」

 また当たった。
 それでもスライムさんは、まだまだやる気まんまんだった。

 私は、もうかってしまった20ゴールドを、どうやってうまく返すか、そればかり考えていた。
 よろず屋の外にあった、黒い箱のようなものを見ながらお店に入ろうとしたら、スライムさんが飛び出してきた。
「わっ」
「えいむさんこんにちはー!」

 私の横を通り過ぎたスライムさんは、その箱のようなものの下にスルリと入って、また出てきた。
 そしてよろず屋に入っていってしまった。

 私は、箱のようなものをよく見る。

 大きさは、私のベッドくらい。
 天井のない箱のような形をしている。

 中は、前側に椅子が外を向いて二つならんでいる。右側の椅子の前には、短い棒の先に円盤のようなものがついていた。
 椅子の横には扉がついている。
 また、箱の下側には荷車のような車輪がついていた。

 スライムさんがまたお店から出てきた。
 なにかを持ったまま箱の下にすべりこんでいく。

「スライムさん?」
「なんですか」
 くぐもった声が聞こえる。
「これ、なに?」
「くるまです」
「車?」
「じどうしゃとも、いったり、いわなかったりです!」

 スライムさんが出てきて言う。
「いっしょにのりましょうね!」
「え?」

 私がぽかんとしていると、スライムさんはまた、お店にもどっていった。

 なんだろう。
 この席で待っていればいいんだろうか。

 椅子の横にある扉を空けて、中に入って右側の椅子に座ってみる。
 なんだか動く余裕がなくて、せまくて居心地が悪い。

 そのとき、足でなにかをふんだ。

「わっ!」

 車、が動き出した。
 ぎゅんっ、と動き出した車はまっすぐ進む。
 お店の前の草原から、がたん、と道に降りて、ぐんぐん速度を上げていく。

 私が走るよりもずっと速い。
 馬より速い。
 景色が嘘のように早く切り替わっていく。

 私は振り落とされないよう、体をふんばって、席の前についている円盤をつかんだ。

 車の進路はだんだん道の真ん中から外れていき、横に生えている木が迫ってきた。
 ぶつかる。

「わっ!」
 私は思わず、目の前にある、丸い円盤のようなものを右に回したとき、車の進路が右に。

 道の真ん中にもどった。

 まだ車はすごい速さで進んでいる。
 でも、円盤で進路の調整ができるようだとわかると。

「こう、かな!」

 道なりに進むことができた。

 風をびゅんびゅん切って走る。
 ガタガタする地面の上でも、硬い椅子に座っておしりが痛くても、そんなの小さいことに思えた。
 どこまでも走っていけそうだ。

 そう思っていたのに、急に、車は力をなくしたように速度を落とした。
 しゅるしゅるしゅるしゅる、と速度を落として、止まった。
 
 私は外に出た。
 さっきまでは全然聞こえなかった鳥の声が、あちこちからしているのに気づいた。
 
「あー、だいじょうぶでしたかー!」
 見ると、よろず屋の方からスライムさんが走ってくるところだった。
「あ、うん」
「あぶなかったですね!」
「なんか、椅子の下にあるやつをふんだら、走り出して」
 私は思い出しながら言った。

「そうなんです! それが、あくせるです!」
「アクセル?」
「これは、がそりんえんじんではないのですけれども! あくせるは、あくせるです!」
「ふうん?」
 よくわからないことを言う。

「まあいいや。じゃあ、一緒に乗って帰ろうよ、スライムさん。もっと速く走りたいな!」
「え?」
「速いと気持ちいいんだね。もっともっと、速くしたい」
 車というのはこんなに気持ちがいいものだとは知らなかった。

「えっと、でも、あぶないので」
「危ないのが気持ちいいんだよ」
「ええ……」
「ぎりぎりで木をよけたとき、すっとしたなー」
「ええっと……」
「ほら、スライムさん、燃料燃料!」
「えっと、もう、ねんりょうはつかいはたしてしまいました」
「ないの?」
「はい。けっして、えいむさんがきけんなので、ないと、うそをついているわけではありません。ほんとうにありません」
 スライムさんはなんだかかたい表情で言った。

「そう。残念。じゃあ、明日ね」
「あしたもないとおもいます。きっと」
「そんなに貴重なの?」
「そうです。ありません。きけんだからうそをついているわけではありません」
「ふーん。残念。じゃあ、私が買ってこようかな」
「すごくおたかいのでむりです! ぜったいに!」
 スライムさんはむきになって言った。

「そうなの?」
「はい! いえがかえます!」
「えー、それじゃむりだ」
「そうでしょうそうでしょう。おとなしく、はこのなかみあてをして、あそびましょう」
「うーん」
「さあ、かえりますよ」

 私は、燃料入手は絶望的だ、という話を聞きながら、スライムさんと一緒に車を押して帰った。
 気持ちよかったのに。
「なにこれ」

 よろず屋に行ってみると、カウンターの前に置いてあるものが、とても存在感を出していた。

 檻。

 金属の格子で作られた檻で、私が入るにはちょっと小さいくらいの大きさだ。
 棒のしっかりした太さや、出入り口のようなところに立派な錠前がかかっているところが、檻を思わせた。

 なにより、どこか遠くを見るような目で中にいるスライムさんが、特別なものの中にいる、と感じさせる。

「ああ、えいむさん、ですか……」
 スライムさんは、ぼんやりと私を見た。

「スライムさん、どうしたのこれ」
「つかまってしまいました……」
「誰に」
「ぼくに」
「はい?」
「ぼくは、つまみぐいをしてしまいました……」
 スライムさんは、しゅんとした。
「どういうこと?」

「ぼくは、きょう、やくそうをたべないようにしよう、ときめたのです」
「うりものだからね」
「そうです! うりものだからです! ……なのに、ちょっと、かじってみてしまいまして。きれいで、あおあおとしていたので。あおあおと」
「青々と」
「そうです。あおあおとして、しんせんでした!」
「よかったね」

「はい! でも、これはいけないことです! じぶんでやったらいけないときめたのに、やってしまいました!」
「だから檻に入ったの?」
「そのとおり!」

 スライムさんが、びしっ、と私を見た。

「これは、ばつなのです……!」
 スライムさんが、しゅん、とした。
「そうなの。いつまで入ってないといけないの?」
「それが……。もういいかな、とおもったのですが、かぎが、ないのです」
「カギ? 檻の?」

 私が言うと、スライムさんはうなずくようにして、上半身をまげた。

「私が持ってきてあげようか?」
「ふっふっふ。そもそも、どこにあるのかわからないんですよ!」
「こらこら、ちゃんと整理整頓してなかったの?」
「せいりせいとんはしてます! しているところは、ね!」
 スライムさんが、びしっ、と私を見た。

「してないところにあるんだね」
「そのとおり!」
「でも、その檻、すき間から出られるんじゃないの?」

 檻の金属棒は、人間などの動物だったら捕まえて置けるような幅だ。
 形を自由に変えられるスライムさんなら、するりと抜け出ることができそうに思うけれど。

「ふっふっふ。えいむさん、ふちゅういですよ」
「え?」
「ぼうと、ぼうのあいだを、よくみてください」

 私は言われたとおり、檻の棒をよく見た。
「あ」
「そうです。じつは、とうめいな、いたが、はいっているのです」
 檻は棒の間が透明な板でふさがれていて、爪でさわってみると、かつん、とかわいた音がした。

「かんさつりょくが、たりませんね」
 ふふふ、とスライムさんが笑っていた。
 どっちがだ、と思ったけれども、スライムさんが落ち込みそうなので言わなかった。

 うーん。
 でも、これはやっかいだ。

「壊せないの?」
「とてもがんじょうですからねえ」
「そっか」
 私は檻をつかんでみた。
 透明な板のせいで棒をつかめないし、とても重くて持ち上げることすらできない。
 ゆらしてみるのがせいいっぱいだった。

 思い切り力を入れても、ぐら、ぐら、とゆれるだけで……。

「ん?」

 檻がゆれると、端がちょっと持ち上がるのだけれども。
 浮いている?

 よく見ると、檻の下の部分はなくて、スライムさんがいまいるのは、お店の床の上だ。
「ねえスライムさん。この檻って、床はないの?」
「かぶせてあるだけです!」
「だったら、私が傾けてる間に、すき間から出られない?」
「! なるほど!」


「いくよー」
 私が力をこめて檻を傾けると、スライムさんが、にゅるり、と床と檻のすき間から出てきた。
 私は檻を元通りに置く。

「スライムさん、気をつけてよね」
「ふふふ。これは、えいむさんの、かんさつりょくをきたえるために、じっけんをしたのです!」
 スライムさんが、びしっ、と私を見る。

「スライムさん?」
「ありがとうございました」
 スライムさん、ぺこり。

「素直でよろしい」
「1まんごーるど、さしあげます!」
「いらないよ」
「ではどうやっておれいをしたらいいんですか!」
「なんで怒ってるの!」

 まったくもう。
「じゃあ、売り物にならない、捨てる薬草とかあったらちょうだい」
「わかりました!」

 それから私は、スライムさんが持ってくる青々とした新鮮な薬草を返して、ちゃんといらない薬草を自分で選別した。二度手間だ。
「まあ、でも、スライムさんが自分でちゃんとしようと努力した結果だしね」
「なんですか?」
「なんでもなーい」
 よろず屋の前にスライムさんがいた。
 自分の体と同じくらいの大きさの木箱を、頭の上に乗せてお店の中に進んでいくところだ。
 重いのか、ゆっくり、ゆっくりと進んでいく。

「スライムさん?」
「ああ、えいむさん」
 スライムさんが振り返って、箱が落ちてしまった。

「あわわわ」
「あ、ごめん」
 私はかけ寄って箱を拾って、そのままお店のカウンターまで運んだ。
 中身は入っているのだろうか、と思うほど、木箱の重さしか感じられなかった。


「えいむさんは、ちからもちですね! どこできたえたんですか?」
「どこでも鍛えてないよ。スライムさんより体が大きいだけだよ。これなに?」
「おみせのまえまで、はこんでもらった、とくべつなしょうひんです」
「ふうん。そうだ、今日は薬草くださいな。お母さんが料理中に指を切っちゃって」
 私はカウンターに硬貨を置いた。

 スライムさんが目を大きく開いた。
「ゆびを? いたそうですね……」
「うん」
「そうすると、まんいちのことをかんがえて、てんしのなみだ、のほうがいいかもしれませんね……」
 スライムさんは考え込むようにした。

「天使の涙って?」
「かつて、いのちをおとしたゆうしゃを、いきかえらせるためにつかったという……」
「そんなのいいから、薬草でいいから!」
「そうですか? でも、ねんのためはだいじですよ?」
 そう言いながらも、スライムさんは薬草を出してくれた。

「おだいじに」
「ありがとう」
「そうだ、これもどうですか?」
 スライムさんは言って、さっきの木箱を開けた。


 箱の中は、ふかふかしたものが敷き詰めてあって、中央には人形のようなものがあった。
 といっても、頭のような丸い部分から、体のような棒がのびて、足のような二本の棒が生えているという、とてもかんたんなつくりのものだった。顔もない。

「これは?」
「おまもりです」
「お守り?」
「もってみてください」

 スライムさんが言うので、私はその、人形のようなものを取り出した。
 私の手にのせると、すこしはみ出るくらい大きさだった。
「それをもっていると、おまもりが、まもってくれます」
「はあ」
 どこかの国で定着している風習だろうか。

「そのかおは、しんじてませんね? よろしい、かしたまえ」
 スライムさんはちょっと偉そうに言う。
 私がスライムさんに返すと、手のないスライムさんは体の後ろ側に、めり込ませるようにしてお守りを持つと、そのままカウンターから落ちた。
「あっ!」

 どしん!

 と顔からまっすぐ床に落ちたスライムさんだったが、平気そうに私に向き直った。
「どうですか!」
「どう、って、だいじょうぶ?」
「おまもりをみてください!」

 見ると、スライムさんが持っていたお守りの頭が取れていて、ヒビが入っていた。
「ぼくのかおにかかったしょうげきが、おまもりに、うつったのです! なにかこまったことがあると、それをぜんぶ、ひきうけてくれるのです!」
「なるほど……」

 たしかに、スライムさんが落ちたとき、お守りはスライムさんの後ろ側にあった。
 お守りというよりは、身代わり、という気もするけど。

「ですから、このおまもりを、ぜひ!」
 とすると、本当に、これはすごいお守りなのでは……。

「これはこわれてしまったので、またこんどになりますが、ぜひ!」
「でも、いいよ。高いんでしょう」
「おたかくないですよ! ただ、つくるひとがきまぐれなので、なかなかつくってくれないだけで。いっこ、30ごーるどです!」
「あ、そうなんだ」
 いつになく、お手ごろだ。

「こんどまたつくってもらったら、ぜひ!」
「そっか。じゃあ、買ってみようかな」
「ぜひ!」
「うん。いつごろ?」
「うーんと、らいしゅうか、らいねんか、それくらいです!」
「え……。そんなにわからないの?」
「もしかしたら、さらいねんに」

 それを買って、母にあげて、父にもあげて、とやっていたら、私の番になるのはいつになるのかな。
 外に出るだけで汗がふきでるような日だった。

 よろず屋に到着するまでに、私のハンカチはもう、絞れるくらいの汗をふくんでいるくらい。

「こんにちは! 暑いね! ……スライムさん?」
 スライムさんの返事はなかった。
 もう一度呼びかけてからしばらく待っていても、やっぱりなんの返事もない。

 今日はいないのかな。
 思ってお店の裏に行こうとしたら、奥から小さな音が聞こえた。

「スライムさん?」

 その音のする方へと歩いていく。
 カウンターの横から、中に入って、ごみごみと物が置いてあるところへ……。

「おっと」
 なにかふんだ。
「ぎゅっ!」
 変な声。

 しゃがんで、なにか、があったあたりをよく見てみると。
「スライムさん?」

 私の親指の爪くらいの大きさしかないスライムさんがいた。
「どうしたの!」
「こうしていると、あつくないんです」
「はい?」

 スライムさんによると、暑くて暑くて、体から水分がどんどん抜けていって、気づくとこの大きさになっていたという。
 これは水分を補給しないとと思ったものの、暑くないことにも気づいたらしい。

「さいきょうの、あつさたいさくです!」
「でも、こんなに小さくなって、なんていうか、蒸発しないの?」
「じょうはつ?」
「ほら、水とか、そのままほうっておくと、だんだんなくなっちゃうでしょ?」
「ふふふ……。これをみてください!」

 スライムさんは言うと、ぴょん、と小さくはねた。
 すると、ぴょんぴょんぴょんぴょん、とあちこちにはねまわる。
 力を使わずに、どんどんはねかえっている。

「どうですか! すいぶんがなくなって、ごむのようになっているんですよ!」
 ぴょんぴょんぴょんぴょん!
 スライムさんは、よろず屋の床と壁と天井を、どんどんはねまわっている。
 これは、スライムさんの密度が高くなって、これまでとは別の性質を手に入れたということなのだろうか。

「あつくもないですし、うごきもはやくて、すごいでしょう!」
 ぴょんぴょんぴょんぴょん!

「すごいけど、ちょっと、一回止まってくれる?」
「はい!」
 ぴょんぴょんぴょんぴょん!

「スライムさん?」
「ちょっと、とまれないかもしれません」
 ぴょんぴょんぴょんぴょん!

「あ!」
 スライムさんが入り口の方にとんでしまった。
 そのまま外へ。

「スライムさん!」
 私は追いかけて外に出る。

 スライムさんの、わー、わー、という声だけが頼りで、それを追う。

 すると静かになった。

「スライムさん?」

 よろず屋の裏へと歩いていくと、スライムさんが、バケツの中から出てくるところだった。
 たぶん、バケツの中に残っていた水を吸って、元通りになったのだ。

「だいじょうぶ、スライムさん」
 かけよると、スライムさんはなんだかがっかりしているみたいだった。

「もとどおりになってしまいました……。あついです……」
「でも、このほうがいいかもしれないよ?」
「……えいむさんは、たにんのふこうをよろこぶんですか?」
「そうじゃなくて、暑くなくなるからって、あんなに小さくなっちゃったら、もしかしたら死んじゃうかもしれないよ」
「しぬ?」
「そうだよ。だって、スライムさんはほとんど水でできてるのに、水が抜けたら大変だよ!」

 私は、スライムさんがすっかり乾いてカラカラになってしまったことのことを思い出していた。

「私、スライムさんが危ないのやだ」
「そうですか?」
「うん!」
「だったら……」


「スライムさん、どうですか」
「うーん、すずしいですよー」
「よかったね」
 よろず屋にもどった私は、スライムさんをあおいでいた。

「ぼくがすずしくてよかったですねー」
「うん。あとで私のこともあおいでよね」
「あー」
 スライムさんは聞こえないふりをしていた。
「こんにちは」
 よろず屋に入ると、カウンターの上にいるスライムさんと、スライムさんの横に置いてあるお皿が目に入った。
 お皿には、こんもりと白い粉状のものがのっていた。

「ふっふっふ。こんにちは、えいむさん!」
 スライムさんは言った。
「ど、どうも」
「どうかしましたか、えいむさん!」
 どうかしているのはスライムさんの方だ。

「ごきげんだね?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ」
 スラムさんは言いながら、横にあったお皿をちょっとだけ前に出した。
「そのお皿がどうかしたの?」
「きづきましたか」
 スライムさんはにっこり、いや、にやりとした。

「この、こな、ちょっとなめてみてくれますか?」
「え?」
 私は一歩さがった。
「どうしましたか?」
「あ、ええっと」
「あぶないものではないですよ」
 スライムさんがにやりとしたので、もう一歩さがってしまう。

 でも、スライムさんがおかしなものを私に食べさせようとしたことなんてない。
 私は、ちょっとつまんで口に入れてみた。

「あまいね」
「でしょう! これは、さとうというものですよ!」
「そうだね」
「え、ごぞんじでしたか……?」

 見ると、絶望的な顔でスライムさんが私の方を向いていた。

「え、あ、えっと」
「さとう、しってましたか……?」
「あ、えっとね、その……、私、知ったかぶりしちゃったかもー。砂糖なんて知らないのに、砂糖を知ってるみたいに、言っちゃったかもしれないなー」

 私はスライムさんをチラチラ見ながら言った。

 ……どうだ……?

「……なーんだ! えいむさん、しったかぶっちゃったんですね!」
「う、うん、そうなの」
 よかった……。
「もう、えいむさんのしったかぶりや!」
「そうなの、私、たまに知ったかぶり屋になっちゃうんだよね」
 知ったかぶり屋ってなんだろう。

「さとう、というのはですね、あまくておいしいんですよ!」
「そうなんだね」
「こほん。ではとくべつに、えいむさんにこのさとうを、わけてあげましょう!」
「そう? でもあんまり貴重なものをもらったら悪いから、また今度でいいよ」
「そうですか? ぼくがひとりじめしていいんですか?」
「うん」
「なんだかわるいですねえ」
「そんなことないって」

「ところでえいむさん。きょうは、どんなごようですか?」
「あ、そうそう、今日はスライムさんにおみやげ」
 私は手提げから、小さなバスケットを取り出して、カウンターに置いた。

「スライムさんが食べられるかわからないけど」
「なんですか、これは」
「えっと、ドーナツっていってね。小麦粉をこねて、それを油であげて、砂糖をかけたもの」
「え?」
 スライムさんが、信じられないものを見るように私を見た。

 あ。

「あ、え、あー、えー、あのね。そうそう、砂糖をかけたら、ぴったりかもしれないなーって、思ったところなの。ちょっと借りるね」
 私はお皿の上の砂糖をささっとドーナツにかけるふりをした。

「ごめんね。私、ちょっと途中を飛ばして話しちゃうことがあって、変なこと言っちゃったよね」

 どうだ……?

 私はスライムさんをじっと見た。
 スライムさんは……。

「なーんだ、えいむさんはうっかりさんですね!」
「そうなの、ごめんね!」
 やった、なんとかなった!

「わざわざありがとうございます」
「スライムさんには、いつもお世話になってるもん」
「さとうはいつもつかうんですか?」
「うん、やっぱり砂糖がないとね! ……あ」

 ワナに……。
 かかった……。
 ……。

「えいむさん」
「はい」
 私は床に座った。
 正座。

「すなおになりましょう」
「はい。ごめんなさい。私は砂糖を知っていました」
「いいですか? ぼくは、だましたことにもおこっていますが、うそをついたことに、いちばんおこっているのですよ」
「はい。ごめんなさい」
「でも、ぼくのことをおもって、うそをついたことは、ぼくもわかりました」
「……」
「もう、うそはつきませんね?」
「はい」
「よろしい。ではいっしょにたべましょう」
「うん! そうだ、お茶も持ってきたから出すね」

 私は手提げからお茶の入ったポットと、コップをカウンターにならべて入れた。
 ふんわりとしたいい香りがする。

「じゃあたべましょう!」
「うん。ん?」

 スライムさんの近くにあったドーナツの上にあった砂糖がなくなっている。

「あれ? スライムさん、砂糖食べた?」
「はい。いま、なめました」
「行儀が悪いよ」
「でも、うそはついていませんよ!」
 スライムさんは胸を張るようにした。

「正直ならいいってものじゃないよ」
「なるほど。よのなかは、むずかしいものですね」

 スライムさんは、うんうん、とうなずいた。
よろず屋に入ると、スライムさんが元気に出迎えてくれた。
「どうもえいむさん! さいきん、あついですね!」
「そうだね」
 なんだかわからないけれど、去年よりも今年はとても暑い日が続いている。
 水分を断とうとしたり、スライムさんが暑さを逃れるためにおかしなことをするのも納得だった。

「スライムさんは元気だね」
「ところで、これをみてください」
 スライムさんが後ろを向いてごそごそしていると、ふわりとなにかが出てきた。

 スライムさんと同じくらいの大きさで、見た目は、キラキラ光っている煙、といったところだろうか。
 ふわふわと、スライムさんの横に浮かんでいる。

「なにこれ」
「きれいですよね」
「そうだね」
「でもこれ、じつは……。ゆうれいなんです!」
「え?」
「すらいむの、ゆうれいなんです!」
「へえ……?」

 あらためて見ると、大きさもスライムさんと似ているし、すこしだけ青みがかっているようにも見えた。

「本物の幽霊?」
「はい! で、どうですか、えいむさん!」
「え? うん、よくわからないけど」
「よくわからない? そうじゃないでしょう!」
 スライムさんが不満そうに言う。

「ええ? どういうこと?」
「なにも、かんじませんか?」
「どういうこと……?」
「そうですか……」

 スライムさんは、なんだかがっかりしているようだった。

「どうしたの?」
「えいむさんを、すずしくしたくて……」
「涼しく?」
「はい……。こわいはなしをすると、すずしくなるって、いいますね?」
「うん」
「それで、ゆうれいをみせれば、すずしくなるかとおもいまして……」
「なるほど……」

 ちょっと、頭の中を整理しよう。

「えっと、まずスライムさん。この幽霊はどうやって……」
「ゆうれいがすきな、いいかおりのおはなで、さそいました!」
 カウンターの上には黄色い花があった。

「じゃあ本物の幽霊なんだね」
「さいしょから、そういってますよ!」
「うん、そうなんだけど、びっくりして」
「こわいですか?」
 スライムさんがうれしそうに言う。

「幽霊って、いきなり見せられても怖くないと思う」
「そうなんですか?」
「うん。怖いっていうより、きれいかな」
 血まみれの幽霊だったりしたら、びっくりして、怖くて、大変かもしれないけれども、この幽霊を見ていてもそういう気持ちにはならなかった。

「ぼくも、きれいだとおもいます!」
「怖くないでしょ?」
「はっ!」

 スライムさんは、はっ、としていた。

「でも、ゆうれいは、こわいものでは?」
「私たちはきれいだって思ったんだから、ちょっと、怖い幽霊だと思わせないといけないんじゃない?」
「ほほう?」
「たとえば……」

「たとえば、そうだなあ。私が、ひまつぶしに、そのへんにいるスライムを殺してるとするでしょ?」
「えいむさんが、そんなひどいことを……!」
 スライムさんは、おそれおののいていた。
「たとえばの話だよ」
「たとえばですね」
 スライムさんは、うなずいた。

「それで、今日もよろず屋に来る前に、スライムを、ただのいたずらで殺していたとする」
「ひどいえいむさんですね! ほんとうのえいむさんではないですけど!」
「その私がこのお店に入ったとき、私にしか見えないスライムの幽霊を見るとするでしょ? スライムさんには見えなくて、私だけ見えてるの。そうすると、スライムにうらまれてるのかな、ってちょっと不安になると思うの」
 いつでもスライムに嫌なことをしていれば、スライムに反撃をされるかもしれない、という気持ちがすこしは生まれるはずだ。

「それで、おかしいな、と思うんだけど、気のせいだと思って家に帰るの。しばらくして、スライムの幽霊のことなんて忘れちゃって、お母さんの料理を手伝ったりして、というときに、急に手にナイフが落ちてくる」
「え!」
「かすっただけですむんだけど、そのナイフはちゃんと奥にしまってあったはずのもので、おかしいな、と思うの。そのとき、ちょっとだけ、あのスライムの幽霊みたいなものが見えて不安になる。おかしいなと思いながら、でももうなにもないから、夜も遅くなったらベッドに入るでしょ? そうすると、寝てたら急に体が大きく揺れるの」
「どうしたんですか!」
「ベッドの足が一本折れてるの。お父さんとお母さんが、これはどうしたんだろう、って話し合ってるんだけど、そのときまた、スライムの幽霊が見えるの」
「ごくり」
 スライムさんはごくりと言った。

「それで、その日はお母さんのベッドで寝て、昨日は変なことがあったね、って話し合うの。でももうすっかりなにもなくなったから、これで安心、と思うんだけど」
「おもうんだけど……?」
「散歩してたら、ちょうど誰もいない道で、動けなくなるの。手も足も動かなくて、声も出ない。陰になっててて、誰も気づかないの。そこで、スライムの幽霊がたくさん見えるの。私の手も足も、その幽霊に押さえつけられてて、口の中にも入ってて、なにもできないの。だんだん息もできなくなってきて、そこで聞こえてくるの」
「なんですか……」

「お前は遊びで殺したな……。お前は遊びで殺したな……。今度はお前の番だ!」
「ひいっ!」
 私が急に大きな声を出したら、スライムさんが飛び上がって、天井にぶつかってしまった。

「あ、だいじょうぶ?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 スライムさんは、幽霊に何度も謝っていた。
「スライムさん、だいじょうぶだよ! スライムさんはスライムを殺してないんだから」
「はっ。そうか、すらいむをころしていたのは、えいむさんだった!」
「私もやってないからね!」

「ええと、だからね? せっかく幽霊を呼んできたなら、うっかり話じゃなくて、こういう作り話をしたりしてから見せると、怖くなると思うんだけど」
「なるほど……。ぼくはすっかり、ひえひえです……」
 スライムさんは、ぶるり、と体を震わせた。

「では、さいしょからやりなおしていいですか……?」
 スライムさんは、おそるおそる言う。
「ちょっと無理かと思うけど。もう、全部わかっちゃったから」
「そうですよね……。もう、なにもしらなかったころの、ぼくたちには、もどれないんですよね……」
 スライムさんは遠い目をした。

「あれ?」
 まわりを見ると、スライムの幽霊がいなくなっていた。
 スライムさんと協力して探したけれども見つからなかった。



 それから何日か経ったとき、親から近所のうわさ話を聞いた。
 悪ガキと呼ばれている近所の男の子が、水辺でおぼれかけたのだという。
 その子は泳ぎが得意なので、みんな不思議がっていた。
 それと、その子によると、なんだか青くてキラキラしたものに、次はお前の番だ、と言われておぼれさせられたのだという。
 話を聞いていると、その子はスライムを遊びで殺していた経験もあるそうだ。
 私はなにか思い出しそうになったけれども、気のせいだと思うようにした。
 今日も暑い。
 町からすこし離れたところで、なにかを燃やすための大きな魔法を使っている、という話も聞こえてきたけれども、どれもよくわからない話だった。
 私にわかるのは、今日も暑いということだけだ。

「あれ? こんにちは」

 よろず屋の前にはスライムさんがいた。
「こんにちは!」
「どうしたの?」
「きょうは、やきゅう、をやろうとおもいまして」
「やきゅう?」
「そうです。はやっているんですよ!」
「どこで?」
「どこか、はもんだいではありません!」
 スライムさんは言った。

「これを使うの?」
 スライムさんの前には、木の棒と、ボールがあった。棒は私の腕くらいの長さ、ボールは私の握った手、よりもちょっとだけ大きいかな。
「そうです!」
「どうやるの?」
「それは、ええと、そうです!」
「じゃなくて、どうなるの?」
「ふっふっふ」
 スライムさんは不敵に笑った。
 どうやらよくわからないらしい。

 そして、ボールを木の棒で打つ遊びだ、ということはたしからしい。
「打てばいいの?」
「そうです!」
「じゃあ、やってみるね」
 私は、地面に置いてあるボールを、棒の先の方で軽く打ってみた。
 ころころ、とボールが転がっていって、止まる。

「これでいいの?」
「そうです! 打てばいいんです!」

 私は、転がしたボールを自分で拾ってきた。
「これを打つ」
 また打った。
 転がる。
 自分で拾ってくる。

「……これは、なにがおもしろいの?」
「ぼくにきかれてもこまります。たのしみというのは、ひと、それぞれですから」
「ルールはあるの?」
「ぼくにきかれてもこまります。るーるというのは、ひと、それぞれですから」
 それは人それぞれだと困るのではないだろうか。

 でも。
 私は、ボールを打って転がす。
 全然つまらないというわけではない。
 なにか、おもしろくなりそうなきっかけがあるような気がするのだけれども……。

「えい。あ」
 強めに打ったら、さっきまでよりも遠くへ転がっていったボールが、道のへこみにちょうど収まった。
「お、えいむさん、ぴったりですね」
「ね」
「なんだか、うまいですね!」
「うまいと思う?」
「はい!」
「実は、私も思った」

 穴にぴったり入るとおもしろい……。
 まてよ。
 これが、やきゅう……?



「スライムさん、いくよ!」
「はい!」
 私は、地面に置いたボールを打つ。
 ぽーん、とちょっと浮いて打ち出されたボールは、よろず屋の裏庭をぽん、ぽん、とはずんでいって、事前に私が掘った穴の横で止まった。

「あー、おしいですねー!」
 スライムさんが悔しがった。
 私は穴の横まで行って、こん、と軽く打って穴に入れた。

「また三回だったね」
「にかい、でいれたいですね!」

 やきゅう、というのはきっと、目標の穴に向かって、できるだけ少ない回数で打つ遊びなのではないか。
 三回より二回、二回より一回。
 打ったボールをいかに思い通りにするか、それを競う遊びなんじゃないか。

 そう思ってみると、遊びとして、なんだか納得できた。

 私はまたよろず屋の裏の水場までボールを持っていって、棒を構える。
「さっきは、ここにうつとよかったですよ!」
 スライムさんがぴょんぴょんはねて、目標を教えてくれた。

「うん、いくよ! あ」
 変な当たり方をしたせいで、ぽーん、とボールが高く上がってしまった。
 スライムさんが指示した場所をこえて、薬草の生えているあたりもこえて。
 それから、変なはねかえりかたをして、もどってきた。

 すると、走って落下地点を見に行ったスライムさんが興奮していた。
「えいむさん! すごいです!」

 見に行ってみると、穴にすっぽりとボールが入っていた。
「すごいね」
「えいむさんは、やきゅう、のてんさいです!」
「えへへ」

 すっかり、やきゅう、を理解した私たちは、協力して、一回で入れられるよういろいろな工夫をして楽しんだ。

「ところで、暑いね」
「そうですね!」
「日陰でやろう」
「そうですね!」

 裏の、ちょっと林になっているところでやってみると、木があるのでかんたんにはできず、また新しい楽しさがあった。
「おかね、とはなんだとおもいますか?」


 よろず屋で、スライムさんがくれた、果物薬草、という薬草を食べていたらスライムさんが急に言った。

「えっと……。この薬草、おいしいね」
「そうでしょう! かじつの、ほうじゅんなかおりと、あまさ、すいぶんりょう、! すばらしいです!」
 スライムさんの言うとおり、薬草というよりは、薄い果実という感じで、口に入れるとみずみずしい果汁があふれてくる。

「もっと食べてもいい?」
「どうぞどうぞ!」
「うん。おいしい」
「ぼくもたべていいですか?」
「もちろん! だってスライムさんのだもん」
「ですよね!」
「それでなんだっけ」
 私が言ったら、スライムさんは口に入れた果実薬草を、お皿にもどした。

「こほん。……おかね、とはなんだとおもいますか?」
 スライムさんは言った。
「お金は、えっと……、ものと交換するためのもの?」
「そうです!」
「当たった」
「では、これをごらんください」

 下に降りたスライムさんが、カウンターの上にもどってきて硬貨をならべた。

 銀色の硬貨の表面には、笑っているスライムさんの図柄が描かれていた。

「これは?」
「すらいむこいんです!」
「スライムコイン」
「ちゅうもんして、つくってもらいました」
「へー、スライムさんと似てる」
「おかねとしてつかえますよ!」
「ええ?」

 私はスライムコインを手にとってみた。
 大きめの硬貨で、100ゴールド硬貨くらいある。

「もちろん、ぼくのおみせでだけでつかえる、おかねですよ!」
「なんだ、そうだよね」
「これをあげます。10ごーるどです!」
「いいの? どうも」
 私が言うと、コインがピカッと光った。

「ん?」
「えいむさんは、いつもはおかねをもらってくれないのに、これはもらってくれるんですね」
「割引券みたいなものでしょ?」
 いくらの価値があるかわからないけど、私はいちおうこのお店の常連でもあるし、そういう券がもらえたとしても不思議じゃない。
 薬草が一回タダ、みたいなことだ。

 それに、あんまりお金という気がしない。
 たぶん、記念にとっておくだろう。

「このおかねがすごいところを、おしえてあげましょう」
「すごいところ?」
「うらをみてください」
 私はコインを裏返した。
 
「ん?」
 コインの裏には、小さな字で……。

「これ、私の名前?」
 私のフルネームが書いてあった。
「そうです」
「どうして?」
「このこいんは、もちぬしのなまえが、かきこまれるしくみになっているんです!」
「ええ!」

 私はもう一度しっかりと見た。
 たしかに私の名前だ。
 そういえば、さっきもらったとき、光った気がする。

「つよくおすと、なまえが、うかびあがります」
「え? ……わっ」
 私の名前が空中にぼんやり浮かび上がった。

「もちぬしの、なまえのかくにんができますので、こうすれば、ぬすまれたとしても、だれのおかねかはっきりしてますから、ほかのひとがつかうことはできないのです!」
「すごい」
「ふっふっふ」
「裏面が名前でいっぱいになっちゃったらどうするの?」
「ふるいなまえはちいさくなって、あたらしいなまえがおおきくなります。とても、くふうしたまほうが、つかわれています」
「へえ」
 読めなくなったら、強く押せばいいわけだ。

「さらに、この、なまえをかくにんしないと、おかねがはらえないはこ、をつかうと、さらにあんぜんになるのです!」
 スライムさんは、カウンターの上に置いてあった箱を、ぽんぽん、とやった。

「だれのおかねなのか、しっかりわかるようになると、どうなるとおもいますか?」

 私は考えてみた。
 他人の名前が書いてあるお金なら、使おうと思っても難しいだろう。
 ということは。
「……どろぼうのしんぱいが、ない?」
「そのとおりです!」
 スライムさんは言った。

「すごいね」
「ゆくゆくは、せかいじゅうに、ひろめたいところです!」
「すごい!」
「えいむさんのおかねも、このおかねにかえませんか!」
「ちょっと興味ある」
「やりました!」
 スライムさんがぴょんぴょん、とびはねた。

「ぼくも、えいむさんにみとめられるなんて、いきつくところまで、きました……!」
「私は何者なの?」

 それはともかく、今回のスライムさんはちょっとすごいのではないだろうか。
 これをみんなが使うようになったら、本当に泥棒がなくなるかもしれない。
 それに、なにか他にもいいことがあるようにも思う。
 信用してもらえるというか……。

「これ、王様とか、そういう人に提案したほうがいいんじゃない?」
「ぼくもそうおもったのですが、ことわられました」
「どうして?」
「わかりません。おそらく、きとくけんえき、がからんでいるのでしょう」
「キトクケンエキ?」
「そうです。ふるくからあって、おかねがからむものには、それがかんけいしています。きとくけんえき。いってみてください」
「キトクケンエキ」
「そうです。きとくけんえき」
「キトクケンエキ」
「そうです。これでえいむさんも、きとくけんえき、をりかいしました」
「ふうん」
 ちょっとわからない。

「とにかく、だめだったんだね……。残念」
「はい」
「このお店の分は、つくるんでしょ?」
「はい! でも、どうぐやさんとか、これをどうにゅうしないかと、ていあんしたひとには、ことわられてしまいました」
「どうしてかな……」
 お店には、便利だと思うんだけど。

「10ごーるどこいんをつくるのに、1まんごーるどかかるっていったら」
「それだ!」
「え?」
「じゃあ、この、お金を安全に払うための箱は、いくらなの?」
「100まんごーるどかかります」
「それだ!!」
「ええ!?」
 スライムさんは、体を斜めにして悩んでいた。

「だって、お金を使うために、お金を全部使っちゃったら、お金がなくなっちゃうでしょ?」
「ほう……。いいこといいますね、えいむさん」
「そう?」

「お金がかからない方法って、ない?」
「ありませんね。このよのなかのものは、すべてに、おかねがかかるようにできているのです」
「そっか……」
 残念だ。

「でももったいないね。お金をつくるのに、お金がかからなければいいんだけどね。実際の形じゃなくて、仮に、あることにするとか」
「かりに、ですか?」
「うん。お金ごっこかな」
「そんなことができたらすごいですね」
 たしかに、そんな約束事でお金が払えるなら、犯罪なんてない世界かもしれない。
 それとも、そんな約束事を達成するための方法があるだろうか。
 魔法では難しいだろうし……。

「うーん」
「うーん」
 よくわからない。

 考えるのにつかれたらあまいものが欲しくなったので、果実薬草をおいしく食べた。
「おいしいですね!」
「そうだね!」