よろず屋の外にあった、黒い箱のようなものを見ながらお店に入ろうとしたら、スライムさんが飛び出してきた。
「わっ」
「えいむさんこんにちはー!」
私の横を通り過ぎたスライムさんは、その箱のようなものの下にスルリと入って、また出てきた。
そしてよろず屋に入っていってしまった。
私は、箱のようなものをよく見る。
大きさは、私のベッドくらい。
天井のない箱のような形をしている。
中は、前側に椅子が外を向いて二つならんでいる。右側の椅子の前には、短い棒の先に円盤のようなものがついていた。
椅子の横には扉がついている。
また、箱の下側には荷車のような車輪がついていた。
スライムさんがまたお店から出てきた。
なにかを持ったまま箱の下にすべりこんでいく。
「スライムさん?」
「なんですか」
くぐもった声が聞こえる。
「これ、なに?」
「くるまです」
「車?」
「じどうしゃとも、いったり、いわなかったりです!」
スライムさんが出てきて言う。
「いっしょにのりましょうね!」
「え?」
私がぽかんとしていると、スライムさんはまた、お店にもどっていった。
なんだろう。
この席で待っていればいいんだろうか。
椅子の横にある扉を空けて、中に入って右側の椅子に座ってみる。
なんだか動く余裕がなくて、せまくて居心地が悪い。
そのとき、足でなにかをふんだ。
「わっ!」
車、が動き出した。
ぎゅんっ、と動き出した車はまっすぐ進む。
お店の前の草原から、がたん、と道に降りて、ぐんぐん速度を上げていく。
私が走るよりもずっと速い。
馬より速い。
景色が嘘のように早く切り替わっていく。
私は振り落とされないよう、体をふんばって、席の前についている円盤をつかんだ。
車の進路はだんだん道の真ん中から外れていき、横に生えている木が迫ってきた。
ぶつかる。
「わっ!」
私は思わず、目の前にある、丸い円盤のようなものを右に回したとき、車の進路が右に。
道の真ん中にもどった。
まだ車はすごい速さで進んでいる。
でも、円盤で進路の調整ができるようだとわかると。
「こう、かな!」
道なりに進むことができた。
風をびゅんびゅん切って走る。
ガタガタする地面の上でも、硬い椅子に座っておしりが痛くても、そんなの小さいことに思えた。
どこまでも走っていけそうだ。
そう思っていたのに、急に、車は力をなくしたように速度を落とした。
しゅるしゅるしゅるしゅる、と速度を落として、止まった。
私は外に出た。
さっきまでは全然聞こえなかった鳥の声が、あちこちからしているのに気づいた。
「あー、だいじょうぶでしたかー!」
見ると、よろず屋の方からスライムさんが走ってくるところだった。
「あ、うん」
「あぶなかったですね!」
「なんか、椅子の下にあるやつをふんだら、走り出して」
私は思い出しながら言った。
「そうなんです! それが、あくせるです!」
「アクセル?」
「これは、がそりんえんじんではないのですけれども! あくせるは、あくせるです!」
「ふうん?」
よくわからないことを言う。
「まあいいや。じゃあ、一緒に乗って帰ろうよ、スライムさん。もっと速く走りたいな!」
「え?」
「速いと気持ちいいんだね。もっともっと、速くしたい」
車というのはこんなに気持ちがいいものだとは知らなかった。
「えっと、でも、あぶないので」
「危ないのが気持ちいいんだよ」
「ええ……」
「ぎりぎりで木をよけたとき、すっとしたなー」
「ええっと……」
「ほら、スライムさん、燃料燃料!」
「えっと、もう、ねんりょうはつかいはたしてしまいました」
「ないの?」
「はい。けっして、えいむさんがきけんなので、ないと、うそをついているわけではありません。ほんとうにありません」
スライムさんはなんだかかたい表情で言った。
「そう。残念。じゃあ、明日ね」
「あしたもないとおもいます。きっと」
「そんなに貴重なの?」
「そうです。ありません。きけんだからうそをついているわけではありません」
「ふーん。残念。じゃあ、私が買ってこようかな」
「すごくおたかいのでむりです! ぜったいに!」
スライムさんはむきになって言った。
「そうなの?」
「はい! いえがかえます!」
「えー、それじゃむりだ」
「そうでしょうそうでしょう。おとなしく、はこのなかみあてをして、あそびましょう」
「うーん」
「さあ、かえりますよ」
私は、燃料入手は絶望的だ、という話を聞きながら、スライムさんと一緒に車を押して帰った。
気持ちよかったのに。
「わっ」
「えいむさんこんにちはー!」
私の横を通り過ぎたスライムさんは、その箱のようなものの下にスルリと入って、また出てきた。
そしてよろず屋に入っていってしまった。
私は、箱のようなものをよく見る。
大きさは、私のベッドくらい。
天井のない箱のような形をしている。
中は、前側に椅子が外を向いて二つならんでいる。右側の椅子の前には、短い棒の先に円盤のようなものがついていた。
椅子の横には扉がついている。
また、箱の下側には荷車のような車輪がついていた。
スライムさんがまたお店から出てきた。
なにかを持ったまま箱の下にすべりこんでいく。
「スライムさん?」
「なんですか」
くぐもった声が聞こえる。
「これ、なに?」
「くるまです」
「車?」
「じどうしゃとも、いったり、いわなかったりです!」
スライムさんが出てきて言う。
「いっしょにのりましょうね!」
「え?」
私がぽかんとしていると、スライムさんはまた、お店にもどっていった。
なんだろう。
この席で待っていればいいんだろうか。
椅子の横にある扉を空けて、中に入って右側の椅子に座ってみる。
なんだか動く余裕がなくて、せまくて居心地が悪い。
そのとき、足でなにかをふんだ。
「わっ!」
車、が動き出した。
ぎゅんっ、と動き出した車はまっすぐ進む。
お店の前の草原から、がたん、と道に降りて、ぐんぐん速度を上げていく。
私が走るよりもずっと速い。
馬より速い。
景色が嘘のように早く切り替わっていく。
私は振り落とされないよう、体をふんばって、席の前についている円盤をつかんだ。
車の進路はだんだん道の真ん中から外れていき、横に生えている木が迫ってきた。
ぶつかる。
「わっ!」
私は思わず、目の前にある、丸い円盤のようなものを右に回したとき、車の進路が右に。
道の真ん中にもどった。
まだ車はすごい速さで進んでいる。
でも、円盤で進路の調整ができるようだとわかると。
「こう、かな!」
道なりに進むことができた。
風をびゅんびゅん切って走る。
ガタガタする地面の上でも、硬い椅子に座っておしりが痛くても、そんなの小さいことに思えた。
どこまでも走っていけそうだ。
そう思っていたのに、急に、車は力をなくしたように速度を落とした。
しゅるしゅるしゅるしゅる、と速度を落として、止まった。
私は外に出た。
さっきまでは全然聞こえなかった鳥の声が、あちこちからしているのに気づいた。
「あー、だいじょうぶでしたかー!」
見ると、よろず屋の方からスライムさんが走ってくるところだった。
「あ、うん」
「あぶなかったですね!」
「なんか、椅子の下にあるやつをふんだら、走り出して」
私は思い出しながら言った。
「そうなんです! それが、あくせるです!」
「アクセル?」
「これは、がそりんえんじんではないのですけれども! あくせるは、あくせるです!」
「ふうん?」
よくわからないことを言う。
「まあいいや。じゃあ、一緒に乗って帰ろうよ、スライムさん。もっと速く走りたいな!」
「え?」
「速いと気持ちいいんだね。もっともっと、速くしたい」
車というのはこんなに気持ちがいいものだとは知らなかった。
「えっと、でも、あぶないので」
「危ないのが気持ちいいんだよ」
「ええ……」
「ぎりぎりで木をよけたとき、すっとしたなー」
「ええっと……」
「ほら、スライムさん、燃料燃料!」
「えっと、もう、ねんりょうはつかいはたしてしまいました」
「ないの?」
「はい。けっして、えいむさんがきけんなので、ないと、うそをついているわけではありません。ほんとうにありません」
スライムさんはなんだかかたい表情で言った。
「そう。残念。じゃあ、明日ね」
「あしたもないとおもいます。きっと」
「そんなに貴重なの?」
「そうです。ありません。きけんだからうそをついているわけではありません」
「ふーん。残念。じゃあ、私が買ってこようかな」
「すごくおたかいのでむりです! ぜったいに!」
スライムさんはむきになって言った。
「そうなの?」
「はい! いえがかえます!」
「えー、それじゃむりだ」
「そうでしょうそうでしょう。おとなしく、はこのなかみあてをして、あそびましょう」
「うーん」
「さあ、かえりますよ」
私は、燃料入手は絶望的だ、という話を聞きながら、スライムさんと一緒に車を押して帰った。
気持ちよかったのに。