スライムさんのよろず屋に行くことは、もう私の日課になっていた。

 もう、目をつぶっていてもたどり着けるかもしれない。
 と思ってすこし歩いてみる。

「あいた!」

 木におでこをぶつけてしまった。

 スライムさんには、だまっておこう。
 誰かに見られていないかどうか、きょろきょろしながら、私は早足で進んでいった。

 ……あれ?
 なんだかおかしい。
 さらに歩いていくと、おかしなところがわかった。

 よろず屋がない。

 近づいてみると、その場所によろず屋の建物がないのだ、とわかる。
 薬草が植えてある裏庭などは、ちゃんとそのままあるからだ。

 どうしたんだろう。

「こんにちは!」
「うわっ!」

 突然、すぐ前にスライムさんが現れた。
 びっくりして地面に尻もちをついてしまった。

「どうしたんですか!」
「こっちのせりふだよ! どこから出てきたの!」
「ふふふ。それは、おみせからですよ」
「そうだ、お店は?」
「ふふふ」

 スライムさんは、ぴょこぴょこと私のまわりを一周して、元の場所にもどってきた。

「どうおもいますか?」
「閉店?」
「えんぎでもないことをいわないでください!」
「すいません」
「まったく!」
 スライムさんは、ふん、と息を出した。

「じゃあ、どうなったの?」
「けしました」
「え?」
「おみせは、けしたのです! はんたいがわが、すけているのです!」
「透けてる……」

 スライムさんによると、お店のまわりを、反対側が映し出される煙で覆っているのだという。
 反対側が見えているので、あたかも、お店が透けているように見えているのだ。

「ぼくは、おみせのなかからでてきたので、えいむさんは、きづかなかったのです!
「なるほど……。じゃあ、あるの?」
「ありますよ!」

 言われたとおり、手を前に出して、このへんかな、というところまでゆっくり進んでみる。
 手が、かたいものにふれた。

「これ、壁かな」
「おもしろいでしょう! ふるくは、にんじゃというものが、こういうものをつかっていたとか、つかっていないとか、なのです!」
 にんじゃ?

「うん、おもしろい」
「でしょう!」
「おもしろいけど、危なくない?」
「どういうことですか?」
「知らない人がぶつかったりしたら、ケガをするかも」
 私はそっと、おでこをさわった。

 スライムさんはしばらくかたまっていた。
 それから大きく、うなずくように動いた。
「……ぼくは、えいむさんにそう、いってもらうために、これをやったのです……」
「ふうん」
「えいむさんがたにんをたいせつにする。そういうきもちを、はぐくんでもらうために、やったのです……」
「ふうん」
「けっして、おもしろそうだから、ではありませんよ……。いきものはすべて、きょうだいなのです……」
 スライムさんは、生き物すべてを愛しましょう……、と目を細くしていた。

「じゃあ、元にもどそうか」
「そうですね。じゅうぶんたのしみましたからね」
「ん?」
「たのしんでは、いませんよ……」
 スライムさんがまた目を細めた。

「では……」
 スライムさんはぴょこぴょこと進んでいった。
 そして見えないものにぶつかった。
 ちょっと横に行って、またぶつかった。

「スライムさん?」
「いっしょに、いりぐちをさがしましょう……」
 スライムさんは言った。

 私がたまたま入らないように、ふだんの出入り口は封鎖していて、変なところから出てきたのでよくわからなくなってしまったらしかった。


「こっちじゃないですか?」
「こっち?」
「こっちです!」

 私はスライムさんを肩に乗せ、ああでもないこうでもないと、よろず屋のまわりをしばらくうろうろしていた。