「わっ」
よろず屋に入ろうとしたら、誰かがいたのでびっくりしてしまった。
「ん?」
よく見ると、それは人ではない。
身長は私よりも低くて胸くらいの高さだ。
頭と体と手足はあるけれども、人よりもずっと大ざっぱなつくりになっていて、丸っこい。
全体的に濃い茶色だった。
顔のような部分には、目の高さに穴があいているだけだ。
それは、ゆっくり私のほうに顔を向け、頭を下げるようにした。
「それは、つちにんぎょう、ですよ!」
いつの間にかカウンターの上にいたスライムさんが言った。
「土人形?」
「そうです! つちでかたちをつくって、まほうせきをいれて、うごかすんです!」
「土なの?」
「うらにわの、つちで、つくりました!」
「スライムさんが作ったの? すごい」
私が言うと、スライムさんはうれしそうだった。
「まほうせきをいれたら、じどうてきにできるたいぷの、つちにんぎょうですけど、それはひみつにしてきましょう! ぼくのてがらです!」
堂々と言った。
「こほん。では、つちにんぎょうくん、ぐるっと、あるいてみたまえ」
スライムさんが言うと、土人形が歩き出す。
私のまわりを一周して、元の場所までもどってきて止まった。
「いったとおりに、うごくんですよ!」
「土人形くん、手をあげて?」
私も言った。
でも動かない。
「動かないよ」
「ぼくがごしゅじんさまですから!」
魔法石を入れた者の言うことを聞くようになるという話だった。
「あ、土がちょっと落ちてるよ」
見ると、店内には土人形が歩いたところに、足あとのように土がついていた。
「つちにんぎょうですからね」
「くずれてるの?」
「ちょっとずつへります」
「じゃあ、なくなっちゃうんだ」
「はかないものですね」
「なんだか、もったいないね」
私が言うと、スライムさんがにやりとした。
「そこで、こんなものをかんがえました! やくそうつちにんぎょう、こっちにきてください!」
店の奥から、緑色のなにかが、のっしのっしとやってきた。
「うわー」
薬草だ。
体の表面、一面に、緑色の薬草がもじゃもじゃと生えている土人形だった。
「どうですか!」
一歩ごとに、薬草が、ふっさふっさとゆれている。
ちょっと、なでてみたいかもしれない。
「あれ、くずれてない」
歩いてきた薬草土人形は、通ったところに土がこぼれていない。
足の裏は土なのに。
「どうおもいますか?」
「固い土でつくった、とか?」
私が言うと、スライムさんは、ノンノン、と笑う。ノンノンとはなんだろう。
「たくさんのやくそうのねっこが、つちを、つかんでいるみたいになってるんです! だからこぼれません!」
「ほえー、すごい。スライムさんが考えたの?」
「ふふふ。ぼくがかんがえたといえばそうですし、まちがって、やくそうがはえているところに、まほうせきをおいてしまったといえば、おいてしまったといえるでしょう!」
スライムさんは力強く言った。
「それで、この土人形は、なにに使うの?」
「歩いたり、手をあげたりできます!」
「それで?」
「それだけですよ」
スライムさんは不思議そうだった。
「なにかに使うからつくったんじゃないの?」
「えいむさん? ぼくが、そこまでかんがえているとおもったら、おおまちがいですよ?」
「そうなんだ……」
「あとで、かたのうえにのって、さんぽします」
「上に乗れるの?」
「それくらいでは、くずれませんよ!」
「ふーん。だったら、買ったものを、家まで届けてくれたりもできそうだね」
「え?」
「あと、買い物袋を持って歩いてもらって、薬草の、出張販売とか。ほら、薬草が欲しい人って、家から出られなかったりするでしょ? そんな人のところに行って、抜いてもらって、お金をもらってお店に帰って来てくれたら、便利だよね」
「ちょ、ちょ、ちょっとまってください!」
スライムさんはバタバタ動いた。
「どうしたの」
「そんなことをしたら、べんりじゃないですか!」
スライムさんは興奮して、ぴょんぴょんしながら言った。
「そうかな?」
「そうですよ! こうしちゃいられない! いますぐそれをやりましょう!」
スライムさんは大あわてで、薬草土人形に買い物かごを持たせて、お代はこちら、薬草土人形、スライムのよろず屋さん、と書いた紙をくっつけて、準備完了した。字を書いたのは私だ。
「これで、そとをあるかせれば、しぜんと、やくそうがうれる……! しぜんと……! よのなかが、べんりになるのですね!」
スライムさんは興奮に震えていた。
「そうだね」
「さっそくやりましょう! つちにんぎょうくん、やくそうをうりに、まちをあるいてきたまえ!」
スライムさんが言うと、薬草土人形は店を出ていった。
しばらくすると、町の大人が薬草土人形の腕を引いてやってきた。
『町の子どもが、こわくておびえているのでやめてほしい』
スライムさんは、便利になるのに、と何度も言いながら聞いていた。
私は、どちらかといえばかわいいと思っていたけど、それは秘密にしようと思った。
よろず屋に入ろうとしたら、誰かがいたのでびっくりしてしまった。
「ん?」
よく見ると、それは人ではない。
身長は私よりも低くて胸くらいの高さだ。
頭と体と手足はあるけれども、人よりもずっと大ざっぱなつくりになっていて、丸っこい。
全体的に濃い茶色だった。
顔のような部分には、目の高さに穴があいているだけだ。
それは、ゆっくり私のほうに顔を向け、頭を下げるようにした。
「それは、つちにんぎょう、ですよ!」
いつの間にかカウンターの上にいたスライムさんが言った。
「土人形?」
「そうです! つちでかたちをつくって、まほうせきをいれて、うごかすんです!」
「土なの?」
「うらにわの、つちで、つくりました!」
「スライムさんが作ったの? すごい」
私が言うと、スライムさんはうれしそうだった。
「まほうせきをいれたら、じどうてきにできるたいぷの、つちにんぎょうですけど、それはひみつにしてきましょう! ぼくのてがらです!」
堂々と言った。
「こほん。では、つちにんぎょうくん、ぐるっと、あるいてみたまえ」
スライムさんが言うと、土人形が歩き出す。
私のまわりを一周して、元の場所までもどってきて止まった。
「いったとおりに、うごくんですよ!」
「土人形くん、手をあげて?」
私も言った。
でも動かない。
「動かないよ」
「ぼくがごしゅじんさまですから!」
魔法石を入れた者の言うことを聞くようになるという話だった。
「あ、土がちょっと落ちてるよ」
見ると、店内には土人形が歩いたところに、足あとのように土がついていた。
「つちにんぎょうですからね」
「くずれてるの?」
「ちょっとずつへります」
「じゃあ、なくなっちゃうんだ」
「はかないものですね」
「なんだか、もったいないね」
私が言うと、スライムさんがにやりとした。
「そこで、こんなものをかんがえました! やくそうつちにんぎょう、こっちにきてください!」
店の奥から、緑色のなにかが、のっしのっしとやってきた。
「うわー」
薬草だ。
体の表面、一面に、緑色の薬草がもじゃもじゃと生えている土人形だった。
「どうですか!」
一歩ごとに、薬草が、ふっさふっさとゆれている。
ちょっと、なでてみたいかもしれない。
「あれ、くずれてない」
歩いてきた薬草土人形は、通ったところに土がこぼれていない。
足の裏は土なのに。
「どうおもいますか?」
「固い土でつくった、とか?」
私が言うと、スライムさんは、ノンノン、と笑う。ノンノンとはなんだろう。
「たくさんのやくそうのねっこが、つちを、つかんでいるみたいになってるんです! だからこぼれません!」
「ほえー、すごい。スライムさんが考えたの?」
「ふふふ。ぼくがかんがえたといえばそうですし、まちがって、やくそうがはえているところに、まほうせきをおいてしまったといえば、おいてしまったといえるでしょう!」
スライムさんは力強く言った。
「それで、この土人形は、なにに使うの?」
「歩いたり、手をあげたりできます!」
「それで?」
「それだけですよ」
スライムさんは不思議そうだった。
「なにかに使うからつくったんじゃないの?」
「えいむさん? ぼくが、そこまでかんがえているとおもったら、おおまちがいですよ?」
「そうなんだ……」
「あとで、かたのうえにのって、さんぽします」
「上に乗れるの?」
「それくらいでは、くずれませんよ!」
「ふーん。だったら、買ったものを、家まで届けてくれたりもできそうだね」
「え?」
「あと、買い物袋を持って歩いてもらって、薬草の、出張販売とか。ほら、薬草が欲しい人って、家から出られなかったりするでしょ? そんな人のところに行って、抜いてもらって、お金をもらってお店に帰って来てくれたら、便利だよね」
「ちょ、ちょ、ちょっとまってください!」
スライムさんはバタバタ動いた。
「どうしたの」
「そんなことをしたら、べんりじゃないですか!」
スライムさんは興奮して、ぴょんぴょんしながら言った。
「そうかな?」
「そうですよ! こうしちゃいられない! いますぐそれをやりましょう!」
スライムさんは大あわてで、薬草土人形に買い物かごを持たせて、お代はこちら、薬草土人形、スライムのよろず屋さん、と書いた紙をくっつけて、準備完了した。字を書いたのは私だ。
「これで、そとをあるかせれば、しぜんと、やくそうがうれる……! しぜんと……! よのなかが、べんりになるのですね!」
スライムさんは興奮に震えていた。
「そうだね」
「さっそくやりましょう! つちにんぎょうくん、やくそうをうりに、まちをあるいてきたまえ!」
スライムさんが言うと、薬草土人形は店を出ていった。
しばらくすると、町の大人が薬草土人形の腕を引いてやってきた。
『町の子どもが、こわくておびえているのでやめてほしい』
スライムさんは、便利になるのに、と何度も言いながら聞いていた。
私は、どちらかといえばかわいいと思っていたけど、それは秘密にしようと思った。