昨日の夜からずっと雨が降っていた。
雨の音はうるさいくらいで、このまま雨がやまなかったら、このあたりの道は川になってしまうのだろうか。そういう心配をしてしまうくらいの量だった。
夕方になってもまだ降っていて、私は部屋の窓から外を見ていたけれど、ふとスライムさんのことを思い出した。雨の日は水分補給をすると言っていた。
もしこの雨で外に出ていたとしたら。
いてもたってもいられなくなって、私はレインコートを着て外に出た。
こういう日こそ、スライムさんは外で雨を浴びて大変なことになっている気がする。
レインコートのフードを雨が強くたたいてくる。耳元がさわがしい。
道は川みたいにはなっておらず、でも水たまりだらけだった。私はわざと長靴で水たまりの中に入ったりしながら先に進んだ。
よろず屋が見えてきたとき、ちょっとほっとした。
いつもと同じ。背後に巨大なものがあったりはしない。
もしかしたら、大量に雨を浴びたスライムさんが、よろず屋をつぶしてしまうほど巨大になってしまっているのではないかと思っていたのだ。
入り口の戸が閉まっているけれども、看板は、よろずや、と書いてあるほうが表になっていたので営業中だ。
私はひさしの下に入って私はレインコートを脱いだ。頭のすぐ上で鳴っていた雨の音がやんで、屋根を打つ雨音に変わる。
レインコートは雨を払ったけれど、まだ水滴がぽたりぽたりと落ちている。
近くにちょうどいい木の出っ張りがあったので、引っかけておいた。お店の中がぬれてしまってはいけない。
「こんにちは、うわっ」
私は思わず一歩さがった。
最初はなんだかわからなかった。
カウンターの後ろに、青みがかった透明なものが天井にのびていた。
なんというか、水でできた柱のようだった。
天井を支えている柱のように、堂々と立っていた。
上の方を見ていくと、閉じている目のようなもの、口のようなものが見える。
もしかして。
「スライムさん?」
話しかけると、目のようなものがぱちぱちと開いたり閉じたりした。
そして私を見る。
「あ、こんくりーとさん、こんにちは」
「どうもエイムです」
コンクリートとはなんだろう。
「えいむさん、ちょっとみないあいだに、ずいぶんちいさくなりましたね!」
「スライムさんが大きくなったんだよ」
これは大きくなった、でいいんだろうか。
「む? む? む?」
スライムさんが体を動かそうとする。
すると、上で引っかかっていた部分が外れて、縦に長いスライムさんがカウンターの上に倒れてきた。
「わ!」
カウンターが壊れてしまう、と思ったら、カウンターの形に従うように倒れた。
やわらかいとても長い太い棒をカウンターの上に置いた、ような形。
「ああ、えいむさん」
先端にある顔が言った。
「スライムさん、どうなってるの?」
「それは、ぼくのせりふですよ!」
「私のだよ!」
どっちのセリフでもいいけれど。
「あれ?」
なにかが落ちてきた?
私はカウンターの反対側に行ってみる。
カウンターの裏、柱スライムさんが最初いたあたりに、水がポタポタ落ちてきていた。
見ているとどんどん落ちてくる。
「雨もりだ」
「あまもりですか?」
スライムさんが、こう、ヘビが顔をゆっくり持ち上げるように、カウンターの反対側から顔を見せた。
「うん。もしかしてスライムさん、ここで寝てた?」
「ねるこはそだつ!」
「スライムさんが寝てるところに、雨もりがきて、スライムさんが上のようにのびていった……?」
寒い日のつららができる原理の逆のように、寝ていたスライムさんが上の方に長くなっていった、のだろうか。
それで縦にのびきったおかげで、スライムさんの体で穴がふさがった……?
やわらかい体だけど、寝ていたことが関係しているのだろうか。
「それはありえますねえ」
スライムさんが、ヘビみたいな体で大きくうなずく。
「ありえるの?」
「くわしくはいえませんがね」
なんだかえらそうな言い方だったけれども、知っているかどうかあやしい。
「ま、とにかく雨もり、ふさがないと」
「てんじょう、とどきますか?」
「いまのスライムさんなら届くでしょ?」
「なるほど、そうですね!」
「私も手伝うからやっちゃおうよ」
「ええ、そうですね……」
スライムさんはゆっくりとよろず屋の外を見る。
「スライムさん?」
「ちょっと」
そう言うと、スライムさんはヘビのように体をうねらせながら、外へと動き出す。
「スライムさん? まさか外で遊ぶんじゃないでしょうね」
「ちがいますよ」
スライムさんが外に動いていく。
「じゃあなに?」
私はスライムさんの、しっぽみたいになってるところをつかんだ。
「えいむさん、つかまないでくださいよ」
「スライムさん! まず雨もり直さないと!」
「そうですねえ」
他人事みたいに言う。
「スライムさん!」
大雨に気づいてなかっただけで、やっぱりスライムさんは外で遊ぶ気満々だった。
私はスライムさんを店内引っ張り込んで、雨もりの修理をさせつつ、ここまでの大雨は危ないからやめたほうがいいよ、と何度も言った。スライムさんは、何度もうんうん言っていた。返事だけは良かった。
雨の音はうるさいくらいで、このまま雨がやまなかったら、このあたりの道は川になってしまうのだろうか。そういう心配をしてしまうくらいの量だった。
夕方になってもまだ降っていて、私は部屋の窓から外を見ていたけれど、ふとスライムさんのことを思い出した。雨の日は水分補給をすると言っていた。
もしこの雨で外に出ていたとしたら。
いてもたってもいられなくなって、私はレインコートを着て外に出た。
こういう日こそ、スライムさんは外で雨を浴びて大変なことになっている気がする。
レインコートのフードを雨が強くたたいてくる。耳元がさわがしい。
道は川みたいにはなっておらず、でも水たまりだらけだった。私はわざと長靴で水たまりの中に入ったりしながら先に進んだ。
よろず屋が見えてきたとき、ちょっとほっとした。
いつもと同じ。背後に巨大なものがあったりはしない。
もしかしたら、大量に雨を浴びたスライムさんが、よろず屋をつぶしてしまうほど巨大になってしまっているのではないかと思っていたのだ。
入り口の戸が閉まっているけれども、看板は、よろずや、と書いてあるほうが表になっていたので営業中だ。
私はひさしの下に入って私はレインコートを脱いだ。頭のすぐ上で鳴っていた雨の音がやんで、屋根を打つ雨音に変わる。
レインコートは雨を払ったけれど、まだ水滴がぽたりぽたりと落ちている。
近くにちょうどいい木の出っ張りがあったので、引っかけておいた。お店の中がぬれてしまってはいけない。
「こんにちは、うわっ」
私は思わず一歩さがった。
最初はなんだかわからなかった。
カウンターの後ろに、青みがかった透明なものが天井にのびていた。
なんというか、水でできた柱のようだった。
天井を支えている柱のように、堂々と立っていた。
上の方を見ていくと、閉じている目のようなもの、口のようなものが見える。
もしかして。
「スライムさん?」
話しかけると、目のようなものがぱちぱちと開いたり閉じたりした。
そして私を見る。
「あ、こんくりーとさん、こんにちは」
「どうもエイムです」
コンクリートとはなんだろう。
「えいむさん、ちょっとみないあいだに、ずいぶんちいさくなりましたね!」
「スライムさんが大きくなったんだよ」
これは大きくなった、でいいんだろうか。
「む? む? む?」
スライムさんが体を動かそうとする。
すると、上で引っかかっていた部分が外れて、縦に長いスライムさんがカウンターの上に倒れてきた。
「わ!」
カウンターが壊れてしまう、と思ったら、カウンターの形に従うように倒れた。
やわらかいとても長い太い棒をカウンターの上に置いた、ような形。
「ああ、えいむさん」
先端にある顔が言った。
「スライムさん、どうなってるの?」
「それは、ぼくのせりふですよ!」
「私のだよ!」
どっちのセリフでもいいけれど。
「あれ?」
なにかが落ちてきた?
私はカウンターの反対側に行ってみる。
カウンターの裏、柱スライムさんが最初いたあたりに、水がポタポタ落ちてきていた。
見ているとどんどん落ちてくる。
「雨もりだ」
「あまもりですか?」
スライムさんが、こう、ヘビが顔をゆっくり持ち上げるように、カウンターの反対側から顔を見せた。
「うん。もしかしてスライムさん、ここで寝てた?」
「ねるこはそだつ!」
「スライムさんが寝てるところに、雨もりがきて、スライムさんが上のようにのびていった……?」
寒い日のつららができる原理の逆のように、寝ていたスライムさんが上の方に長くなっていった、のだろうか。
それで縦にのびきったおかげで、スライムさんの体で穴がふさがった……?
やわらかい体だけど、寝ていたことが関係しているのだろうか。
「それはありえますねえ」
スライムさんが、ヘビみたいな体で大きくうなずく。
「ありえるの?」
「くわしくはいえませんがね」
なんだかえらそうな言い方だったけれども、知っているかどうかあやしい。
「ま、とにかく雨もり、ふさがないと」
「てんじょう、とどきますか?」
「いまのスライムさんなら届くでしょ?」
「なるほど、そうですね!」
「私も手伝うからやっちゃおうよ」
「ええ、そうですね……」
スライムさんはゆっくりとよろず屋の外を見る。
「スライムさん?」
「ちょっと」
そう言うと、スライムさんはヘビのように体をうねらせながら、外へと動き出す。
「スライムさん? まさか外で遊ぶんじゃないでしょうね」
「ちがいますよ」
スライムさんが外に動いていく。
「じゃあなに?」
私はスライムさんの、しっぽみたいになってるところをつかんだ。
「えいむさん、つかまないでくださいよ」
「スライムさん! まず雨もり直さないと!」
「そうですねえ」
他人事みたいに言う。
「スライムさん!」
大雨に気づいてなかっただけで、やっぱりスライムさんは外で遊ぶ気満々だった。
私はスライムさんを店内引っ張り込んで、雨もりの修理をさせつつ、ここまでの大雨は危ないからやめたほうがいいよ、と何度も言った。スライムさんは、何度もうんうん言っていた。返事だけは良かった。