スマホの画面をタップして、コールする。

数秒後、眠たそうな声で電話に出た親友に私は尋ねた。

「寝てた?」

「寝てた。寝てた。レポート、死ぬほど出ててさぁ。徹夜だったんだよね」

「そっか」

「何かあった?」

「ううん。別に何も」

「嘘」

「嘘って、桜(おう)ちゃん」

「風ちゃんが『別に何も』って言う時は、絶対何かあるんだよ。いいから、おいで」

「でも、レポート・・・・・・」

「ほとんど終わった」

とにかく、今すぐウチにおいで。そう言って電話は切れて、私は迷いつつも、駅に足を向けた。

思えば、私は高校生の頃からずっと桜ちゃんの優しさに甘えている。

座席に座り、規則正しいリズムに揺られながら、目を閉じる。

桜ちゃんの家の近くのコンビニで何か手土産を買って行こう。

彼の住む街の一つ手前の駅で瞼を開ける。

開いたドアから制服姿の女子高生と男子高校生が乗り込んでくる。

春ちゃんの通っていた学校の制服。

男の子は空いていた席を女の子に譲ると自分は吊り輪を握って、彼女に話しかけた。

なんだか舞子さんと春ちゃんみたいだなぁと思い、そう思った途端、見ているのが辛くなって、再び瞼をおろした。

春ちゃんはいない。

私の隣にもう、いない。

呪文のように自分に言い聞かせて、息を吐く。

どうしようもないこの気持ちに、私は未だに名前がつけられない。