前川くんの視線を受けながら、私は何も言わなかった。

違う、言えなかった。

次に彼は何を言うだろう。

別れを告げられたショックよりも、核心に迫られた恐怖の方が私には大きくて、私は思わず視線を下げた。

「風花ちゃんが俺のことを好きになろうと努力してくれていたのは分かる」

静かに言葉を紡いだ彼は、穏やかな目をしていた。

それが彼の一種の諦めから来るものだと分かるくらいには私達はお互いを知っていた。

「でも、ダメだった。俺の方がもう限界だった。風花ちゃんは、」

「・・・・・・」

「一体誰の事を見てたの?」

だんまりを決め込む私に、前川くんは苦笑をこぼした。

「最後はお互いありがとうで終わろっか」

好きだったよ。

ちゃんと好きだったよ。

動かない口。役立たずの脳みそ。

大学2年生の冬。

喫茶店の窓からのぞく街並みにはイルミネーションが加わり、通り過ぎる人たちは早足で家路を急ぐ。

私は何も出来なかった。

あの時と同じで、何もしなかった。

愚鈍な自分が嫌になって、華やぎを帯びる外の風景からコーヒーカップへ視線を移す。

店内を流れる洋楽は春ちゃんから初めてもらったクリスマスプレゼントのCDに入っていて、どうして今、このタイミングでと唇を噛む。

もう一緒に同じイヤフォンを片方ずつはめて、音楽を聴くことのない春ちゃんのことを私は前川くんに言わなかった。

そういう判断が下せたことだけはこの時の自分を褒めてあげたい。