4月の春。
今日は入学式だ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。」
母親の声を聞きながらドアを開ける。
高校の制服はまだ新品の慣れない匂い。
正直この匂いは好きではないけれど、高校生になった実感が湧き、余計に僕の心を奮い立たせた。
「あ!太陽、おはよー」
同じタイミングで隣に住む
山本 明里(やまもとあかり)と同タイミングで外に出た。
明里も僕と同じ高校に通う。
いつも着ていた中学のセーラー服ではなく、パキッとしたシワのないワイシャツに藍色のネクタイを基調としたチェックのネクタイが締められていた。
いつもの格好と違うからか、明里が少しだけ大人っぽく見えた。
「うわ、やだ太陽が高校生に見えるっ」
「当たり前だろ、高校生なんだから。」
そんな会話をしながら学校に到着した。
玄関にはクラス表が貼られていた。
「太陽ー、何組?」
「3組。明里は?」
「私は1組。離れちゃったねー」
ざんねーんと棒読みで言いながら明里は笑う。
「んじゃっ、ここで!」
「うん」
「ぼっちにならないように頑張りなー」
「うるせ」
ったく、中学でのぼっちは、
高校でもぼっちだっつーの。
なんて心で思いながら自分の教室に足を向ける。
席に座って本を読んでいると、
「それ、なんの本ー?」
せっかく本の世界に入ってたのにと心の中で悪態をつきながら顔を上げると、
初めて見る女の子がこっちを見ていた。
「あっ!初めましてー」
なんてヘラヘラ笑いながら、やっほーなんて言いながら僕に手を振る。
「私、夏目 栞(なつめしおり)!」
と言うと、じっとこっちを見てるくる。
あ、僕も言わないといけない感じ?
「源 太陽(みなもとたいよう)」
「太陽くん!よろしくねっ」
たいようくん、か。
「よろしく、夏目さん。」
「そこは栞って呼ぶべきでしょっ!」
もうーといいながらこっちを見てきた。
女子に呼び捨ては僕的に無理だ。
明里は例外として。
「じゃあ…栞さん。これでいいでしょ」
「ええー、仕方がないなー」
なんて言って少し落ち込んでいるように見えた。
「ホームルーム始めまーす」
といいながら、少し若そうな女の先生が現れた。
「初めまして、山田 香菜です。
山田先生って呼んでくださーい。」
はーいとちらほらと返事が聞こえた。
「はい。じゃ、これから始業式だから体育館に行ってくださーい」
ゾロゾロと生徒たちが教室から出ていく。
「太陽くん!一緒にいこ?」
「はぁー」
分かりやすく盛大なため息をついてやった。
すると、むふふふふと声が右下から聞こえた。
「私が可愛すぎて見惚れちゃった?
やだもう、恥ずかしいっ」
なんなんだ、こいつは。
「やめてくんない?こっちが恥ずかしいんだけど。」
またまたぁーと、栞は笑っていた。
何が面白いのかさっぱりわかんないけど。
体育館に着いた。
「太陽ー」
パッと後ろを振り返ると、明里がいた。
「おー明里。」
「お友達はお出来になられました?」
と、ニヤニヤして聞いてきた。
俺は友達が出来ないって知ってるくせに
この野郎。
「私、太陽くんのお友達ですっっ!」
シュパッと効果音が付きそうなくらい
勢いよく手を挙げたのは、
「夏目…?」
僕の隣にいる女。
そう、夏目 栞だ。
「っていうか、僕ら友達じゃなくね?」
「えっ!友達じゃないのっ?」
あっけらかんとした表情で夏目は言う。
そしてまたすぐ表情が変わり、
「あっ、ていうか太陽くんまた私のこと夏目ってよんだ!」
と、なんか少し怒っていた。
なんでそこまで苗字読みが嫌いなんだろう。
よく分かんないな。