ある夏の日、僕は僕である事に突然飽きた。だから、義理の姉である菫(スミレ)に告白をした。告白は了承され、僕と菫は恋人になった。

 それから、ニ週間が過ぎた。その日は蝉がうるさい暑い日で、晴れた空には入道雲が乗っていた。庭の九重葛が、深緑の中によく映えている。今日は二人で出掛けたりせず、僕と菫は自宅の居間でくつろいで居る。
 今日はいつもの如く両親は店に出て、女中は掃除をしに離れに行った。僕は窓の向こうから聴こえる風鈴の音を聴いていて、菫はちゃぶ台を前に本を読んでいた。僕は静かに目を閉じて、なだらかな風を感じた。それから目を開けて、菫を呼んだ。菫は顔を上げると、僕の方を向いて座り直した。
「なぁに、木春。」
 木春(キハル)は僕の名前だ。笑顔で返事をする僕の恋人。僕も近づいた。それから、菫に顔を近づけて、接吻をしようとした。ビク、と震えて、菫は身体を離した。僕の口に手を置いた。菫は僕の接吻を止めた。僕はやっとほっとして、一息をつく。菫は、失敗した様な表情をした後、何とかとりつくおうとして困っていた。
 「…その、私たちにはまだ早いと思うの」とか、「びっくりして」とか、下を向いて言い訳をした。菫は嘘が下手だ。だから僕は「もう嘘をつかなくていいよ。」と言った。僕は菫がまだあの水辺から帰ってこれていない事を知って居る。菫の中には水面があって、そこに垂れる涙の滴は、彼女の内側に落ちてしまう。だから菫の表面からは、もう涙が零れない。僕は、振られる為に菫に告白をした。菫を水辺に置いて来たのは僕だから、僕が連れて帰りたいと思った。水辺にいなかった頃の菫を、僕は今よりもずっと透明な気持ちで好きだったから。
「ねぇ、菫。少しだけ、僕の話を聞いてくれる?」
 気まずそうな菫を見ながら、僕は静かにそう切り出した。僕の恋人の菫は、僕の事を好きじゃない。

菫は、僕より一つ年上のうちの養女だ。七歳の頃両親が事故で亡くなり、親戚だった家に引き取られた。七歳で両親を亡くし、その上知らない家に住む事になり、おとなしい菫は不安そうだった。僕は親戚で集まる際に菫とよく遊んでいて、当時六歳だった僕は単純に菫と家族になれて嬉しかった。お互いの両親に手を引かれお別れする事無く、菫と遊んでいられる。
僕は菫の手を引いて僕とのお絵描きに誘った。そうしたら固い表情だった菫が、ほっとした表情をして僕とお絵描きをしてくれた。

十三歳くらいだっただろうか。ふいに菫を意識する様になった。それ迄はずっとただの仲のいい姉弟だった。庭から柔らかな日差しが入って、菫の長い黒髪を揺らす。菫は十四歳の女学生で、白いリボンのセーラー服がよく似合っていた。小さい爪の乗った指がページをめくる。菫は本が好きで、当時からよく図書館を利用して本を読んでいた。
二人共おとなしい方で、二人で居てもさほど会話をする訳じゃない。一緒に居てもお互いに好きな事をするだけ。だけど二人で過ごす空間はよく落ち着けて、僕は菫と一緒に過ごす時間が好きだった。なのに。
心臓が汗をかく様に、動揺が身体を駆けた。動悸が激しくなる。目の前の子が、綺麗で目が離せない。頬が熱い。見慣れた顔を見られない。恥ずかしい。こんな自分を隠したい。驚きを流せなくて、指が震えた。気づいたのが今だっただけだ。多分、ずっと前からそうだった。急に理解をした。好きだったんだ。義理の姉を、僕は。女性として。
駄目に決まってる。姉弟だ。家族だ。血が繋がっていないとは言え、ずっと子供の頃から一緒に育って来た。ぞっとする。気持ち悪い。菫の家族はもう僕達だけなのに。それを今更裏切れない。裏切りたく無い。菫も、菫を家族だと思っている父と母も。
それから、僕は菫を避ける様になった。僕を心配する菫に反抗した。抵抗した。菫は諦めずに僕と仲良くしようとしてくれたけど、僕が隙無く菫を拒否した。僕に話し掛けると怒った。嫌がった。舌打ちをした。手を振り払った。菫を何度も泣かせた。
幼稚園位の男子がよくやる好きな子を泣かせたいとか、気を引きたいとかそういう感情じゃない。もっと暗くて怖くて、後ろめたくて罪悪感があって、怯えている。この感情を菫に悟られたくない。大事な菫姉さんを裏切って居る事をバレたくなかった。菫に、僕は信頼に値しない人間だと失望されたくなかった。

次の年の夏祭りで、菫は金魚掬いで金魚を獲って来た。菫はオレンジ色の二匹の金魚を、丸い硝子の金魚鉢に入れて、にこにこ眺めていた。菫姉さんを裏切っている自覚がある癖に好きな事も止められなかった僕は、金魚に嫉妬した。その頃には自分の葛藤に疲れて荒んでしまっていて、僕はいつもイライラしていた。
その頃の菫は僕に気を遣ってしまっていて、僕に遠慮をする様になっていた。二人で笑い合う事も、穏やかな時間を過ごす事も、もうずっとしていなかった。僕は本当は今でも菫に笑い掛けて欲しかったけれど、彼女はもう僕を怖がってしまっていて、随分と長い事僕は菫の笑顔を見ていなかった。菫に笑い掛けて貰える金魚が憎かった。
翌日僕は学校から帰って家へ寄り、菫の金魚鉢を持って家を出た。近所の川辺に着く。色んな事が上手く行かなくていつもイライラしている癖に、それを上手く消化出来なかった。僕は、こんな最低な行動でしか嫉妬心を吐き出せなかった。金魚鉢の中身を川へ捨てた。二匹の金魚が、ぽとぽとと水の中に落ちる。オレンジの魚達は円を描く様に川の流れの中へ消えた。
菫には水道から逃げたとか猫が来て食べたとか、適当な理由を伝えよう。否、猫は菫が傷つくか。そう考えながら川から上がる。
「木春…!」
聞きなれた声がした。久しぶりにちゃんと聞く透き通る声に、僕はこんな時迄心地良さを感じてしまって、自分にうんざりした。
「…木春、何してるの」
菫が居た。学校帰りらしい。セーラー服を着て、鞄を持っている。
「それ…うちの金魚?どうしたの?何か病気にでも…」
「うっせえな!」
僕は“菫が嫌がる事をするけど、嫌われたくはない”と言う都合のいい狡さを咎められた様な気がして、思わず怒鳴った。思えば上手い言い訳なんていくらでもあったのに、僕は後ろめたくて、自分が嫌いで、その時は何も思い浮かばなかった。
「お前うっとおしいんだよ!姉貴ヅラしていちいち構ってきやがって、血も繋がって無い癖に!行く所無いから置いてやってるだけだ!こんな、金魚鉢なんて邪魔で、迷惑なんだよ!もうっ…どっか、行けよ…!!!」
きっと僕は、ずっと心の何処かで『菫と家族じゃなければ気持ちが通じる事もあったのかな』って思ってたんだと思う。そういう僕だけの我が儘を、最悪な形で菫にぶつけた。
「…」
ザリ…、と河原の石が擦れる音がした。
「木春…」
風が吹く。
「…お姉ちゃんの事、嫌いになった…?」
そう言って、菫の大きな瞳から静かに涙が零れた。そのままぼろぼろと涙が溢れて足が震えて、このまま崩れ落ちてしまうんじゃないかと思った。河原の石に、水滴がぼとぼとと垂れた。
分かってる。菫は強い人じゃない。だけど自分の境遇に腐らず今の自分に出来る事を精一杯している。強くあろうと頑張っている子だった。七歳で両親を亡くして一人ぼっち。不安や淋しさに潰されそうな日もあっただろうけど、その度に僕や両親が菫の手を掴んで、頭を撫でて“大丈夫だよ、僕達が居るよ”って伝えて来た。その言葉を菫も歪めずに受け取ってくれて、最後はいつも家族皆でご飯を食べた。
菫は弟の僕の事を大好きだっただろう。信頼もしている。自惚れで無くそう思う。血が繋がっていないからこそ、家族としての心から信頼してくれていたと思う。
「どうして…?私、何かしちゃった…?なら、謝るから…」
そう言って、もう一度僕を見て涙を零した。僕は自己嫌悪と罪悪感で見てられなくて、菫を一人水辺に残して家へ帰った。僕だって菫と仲のいい家族をしたかった。出来れば一生。お互い家庭を持っても爺さんになっても婆さんになってもお茶くらい飲める、仲のいい姉弟になりたかった。菫は、穏やかで優しい姉だったから。
思えば、僕は自分を守るのにいつも必死で、好きな子の心なんて全然守れていなかった。自分が傷つきたく無くて、罪悪感に駆られるのが辛くて、嫌いな自分を直視したくなくて、そういう自分を思い出させる菫を見るのが嫌だった。菫は悪くない。悪いのは僕一人だったのに、僕の不甲斐なさに菫を巻き込んだ。ぼろぼろに傷つけた。
菫の帰りが遅い事を心配した両親が、女中と菫を探しに出掛けた。程なくして見つかった菫が両親と共に家に帰って来た。僕の言った言葉は両親に伝えられても良かったが、菫は言わなかった様だった。菫はしばらくは塞ぎこんでいたが、又切り替えた様に元気になった。だけど僕へは必要な事以外話し掛けてこなくなった。

そして何も変わらないまま数年が過ぎて、ある日僕に見合いの話が来た。僕の家は老舗の呉服問屋で、割と繁盛していた。僕は内向的で人見知りで、商売なんててんで向いている気質ではなかった。けれど一人息子だったから、両親は出来れば僕に跡を継いで欲しいと願っているのも知って居た。
両親は色々考えて、僕に色んな可能性を与えてくれようとした様だった。店の手伝いをしながら仕事を覚えて、自分の好き嫌い、向き不向き、ずっとやっていける仕事なのかどうかを自分で考える。もし向いていないと思っても、まだ学生だから別の職業も選べる。だから、早めに店に立ってみないか、と言われた。
見合いも同じだっだ。僕はどうしても人見知りの気質だから、何もしなければ何も変わらないだろう。だけど、学生の内から色んな人に会って、女性にも色んな性格の人が居るんだって事を自分で分かる様になる事は、決して無駄じゃない。学生の僕の年齢に釣り合う人だから、相手もそう結婚を急いでいる訳じゃないだろう。多分向こうのお嬢さんも社会勉強的な意味合いもある。結婚なんて固く考えず、色んな人と出会う機会を作りなさい。と言うのが両親の方針だった。
その目的なら見合いじゃ無くてもいいんじゃないかと思ったけど、僕の引っ込み思案な性格では女性の友達を自力で作るのは難しいだろう、と言われた。それは当たっている。

そんな風に将来を考えて、自分の子供っぽさにようやく嫌気がさした。僕は僕である事に飽きた。甘えていたけれど、自分は、もう誰からも大人だと認められていく年齢なんだと思った。だからちゃんと菫姉さんに振られようと思った。自分の菫への恋愛感情に決着を付けたい。
取り返しのつかない事を沢山した。きっともう何も元には戻らない。だけど、菫に今迄したかったけれど出来なかった事を沢山して、好かれる為の努力を精一杯しようと思った。僕は本当はずっとこういう事をしたかったんだと今更気づいた。男性として好きな子に好かれる努力。
 今更好かれようとか、許されようと思ってる訳じゃない。でも、すっかり僕に委縮してしまって気持ちが遠ざかってしまった菫に、ちゃんと謝りたいと思った。出来るなら傷つけてしまった心を治したいとも。もう僕では難しいかもしれないけど。僕は店は手伝うけれど、見合いは『好きな人が居るから』と言う理由で断った。

養女である事に引け目を感じていて、僕に遠慮をしてしまっている菫は、僕の恋人になってくれた。目が昏いから、本心からの了承では無いのは僕にも分かった。好きな子に“弟の恋人になるのが嫌だ”なんて当たり前の事すら言えなくさせてしまった自分の不甲斐なさが、情けなかった。

「…ねぇ、菫。」
僕は、目の前で話を聞いてくれている菫の顔を両手に取って、真正面から見つめた。
「…僕が水辺にあんたを置いていった事を、どう思った?」
少し間があった後、やっぱり菫らしい嘘をついた。
「…木春が金魚を逃がしたのは悲しかった。でも私はこの家にお世話になっている身だし…その家の長男が嫌がる事を私がしたのなら、私が悪かったと思うの。木春はさっき自分が悪かったって言ってくれたけど、そんなの気にしなくていいの。姉として弟を寛大な心で許すのは、当たり前の事だ、し」
 言い終わって、疲れた様に下を向いた。
「…あんたを引き取って育てているのは父さんと母さんだ。僕じゃない。だから、あんたが僕に遠慮するのは筋違いだよ。」
 なるべく優しい声でそう伝えた。今迄の僕は、自分の心を守る為に菫の心を犠牲にしてきた。でもそれは僕が弱かったからで、僕が本当にしたかった事とは違う。今の僕は、菫だけを幸せにしたい。
「あんたは我慢強いから、弟に弱音を吐くのは格好悪いって思ってる。だけどそれは格好悪い事じゃない。本当に格好悪いって事は、自分の本当の気持ちを無視して、自分を偽って、自分じゃない自分で居ようとする事だ。そう言うのって、自分を不幸にするんだよ。…本当はあんたに優しくしたいのに、ずっと出来なかった僕みたいに。」
 なるべく怯えさせない様に、柔らかい言葉を探して伝える。
「僕は、弟だけど、今はまだあんたの恋人なんだから、あんたは僕に、弱音を吐いていい。僕は本当のあんたにがっかりしない。失望しない。受け止める。本当のあんたなんて、僕はとっくに知ってる。家族だから」
心をこめて、好きな子に伝えた。
「自分って何なのか思い出す方法はね、自分が何を好きで何が嫌いなのか思い出す事だよ。自分がどんな事に怒っていて、どんな事を悲しいと思ったか、自分の気持ちの声を聞く事だよ。」
 菫の身体が少し反応した。
「…ッ、…私は、   、」
 細い首から、小さな声が漏れる。
「うん。いいよ。ゆっくり話して」
「…私は、悲しかった。木春に意地悪されて、怒られて、仲良くして貰えなくて、嫌いって言われて、凄く悲しかった」
「うん」
「私は家族がもう亡くて、でもあんたが私を家族にしてくれたから、だからもう一度頑張ってみようって。そう思えたのに。なのに途中で嫌うんなら、話し合いの機会もくれないなら、最初から受け入れないで欲しかった。孤独な方が楽だった。途中で家族を止めるなら、最初から喜ばせないで欲しかった」
「うん」
「私が大事にしてた金魚を捨てたのも、怒るのも、無視されたのも、水辺に置き去りにされたのも、全部許せない。私は何もしてないのに、突然攻撃してきたあんたが憎い。家族にしてくれないなら、家族だよって、最初から言わないで。行く所が無い私を途中で捨てるなら拾わないで。私の、今の家族を好きって気持ちをぐちゃぐちゃにされて、悔しい。悲しい。辛い」
「うん。」
「だけど、私はお姉ちゃんだから、大事な弟だから、許さないといけない。傷付いてるのを隠さなきゃいけない。弟達を、甘えさせないといけない。弟達に文句を言っちゃいけない。姉として、器が小さいと思われたく無い。頼りになる姉だって、思われたい。私がちゃんとしたお姉ちゃんになれば、いつか又あんたと仲が良い姉弟に戻れるんじゃないかと期待した。怒りたいのを、我慢した」
「うん。…僕の事を、どう思った? 」
「…」
 菫は迷っている様だった。だけど僕はその言葉こそ聞きたかった。その言葉を聞くために、僕は全部をした。菫の目にみるみる涙が溜まった。一度溢れてしまうと止まらない様で、ぼろぼろと透明な水が頬を伝って、菫の服に染みた。
「…、ッツ、…きらい。木春が嫌い。大嫌い。憎い。殺したい。悔しい。殴りたい。怒鳴りたい。今迄私の感じて来た屈辱を、全部あんたに返してやりたい。帰る所が無くて居場所の無い私が感じた惨めな気持ちを、あんたにも味あわせてやりたい。嫌い。嫌い。嫌い。本当に、大ッ嫌い…!! 」
「ッツ、 、…大嫌い、なの…」
 嗚咽を漏らしながら、菫は子供みたいに泣きじゃくった。大きな声で、腹の底から、何年も溜めた感情を、一気に吐きだしている様だった。菫は自分の顔を両手で覆って、大声で泣いた。悲嘆。怒鳴る。叫ぶ。泣く。大声で罵る。
 その声が余りにも悲しそうで、菫を苦しめた罪悪感で、胸が痛くなった。身寄りの無い菫に僕がした事は弱い者虐めに他ならない。僕も後悔で泣きそうだけど、僕に泣く資格は無いと思うから、我慢した。 
「菫。…ごめんね。」
 自分の心の底から湧き出る全ての気持ちを込めて、謝った。こんな言葉で許される筈が無いし、許されるつもりも無かった。けど、謝りたかった。静かな部屋に、菫の鳴咽だけが響いていた。
随分と時間がたって、ゆっくりと菫が起きあがった。少しすっきりしている様な顔の菫と、顔を見合わせた。お互い照れた様に笑い合った。菫は、ゴシゴシと、片手で涙を拭いた。
「…ふふ、すっきりした」
 赤い目をこすりながら、久しぶりに見る、さっぱりした笑顔で微笑ってくれた。
「姉として恥ずかしいけど、木春が聞いてくれて…良かった。有難う、木春」
 ひどい事をした僕にお礼を言うなんて、やっぱり人がいいなぁ、と思った。それから、僕も微笑った。
「ううん。気にしなくていいよ。僕も菫姉さんから、一番聞きたい言葉を聞けて、嬉しかった」
 僕もすっきりとして、心からの笑顔で笑えた。
「…意地悪したり、怒ったり、ひどい言葉を投げかけたり、好きな人が困っているのに助けなかったりしたら、好きな人に嫌われるなんて、当たり前の事なんだ」
 僕は菫姉さんの優しさと姉弟愛に甘えて、そんな当たり前の事から随分と目を逸らし続けていた。だから僕は失恋をした。だけど、これが僕のした事の結果だから、ちゃんと受けとめようって思った。
泣かないつもりだったのに、僕も涙が出た。さっぱりとした、気持ちのいい涙だった。
「…私の秘密を教えてあげようか、木春」
 少しだけ菫が僕の顔に近づいて、内緒話をする様に私の耳に囁いた。
「…私、本当は人生で一度も、人を好きになった事が無いの」
 それを聞いて、僕は吹きだした。笑いながら、又涙が出た。
「…知ってるよ、ばか」
 その日僕は少しだけ自分を好きになる事が出来て。

二人で、恋人を辞めた。