心のどこかで覚悟はしていたけれど、いざ現実を目の前に突きつけられた途端、ボクはひどく悲しい気持ちになった。ひどくやりきれない気持ちになった。



 確かに、真夏ちゃんほどの美少女をオス共が放っておくはずがない。でも彼氏ができただなんて、あまりに唐突過ぎやしないだろうか。ボクに相談の一つもないなんて。所詮、彼女にとってボクは、その程度の存在だったということなのか。



 真夏ちゃんはボクの初恋の人であり、たった一人の、かけがえのない親友だと思っていた。けれど、それはどうやら思い過ごしだったらしい。



 真っ黒なカーテンを閉め切った飾り気のない六畳間には、冷房の作動音だけが慎ましやかに響いている。ベッドの上で両膝を抱え、ただひたすら虚空を見つめているボクは、さながら生ける屍だ。あの男と出会う前までの多幸感に満ち満ちた春原小秋はもう、ここにはいない。



「はあ……」



 無自覚にため息が漏れる。



 ジョーという軽薄男と合流した直後、真夏ちゃんに駅ナカのシアトル系カフェに誘われた。三人でおしゃべりしようよ、と。



 もちろん、そんな生き地獄に耐えられるほどのメンタルを持ち合わせていなかったボクは、彼女からの誘いを断り、そのまま地元に向かう電車に一人で乗り込んだ。この世の何もかもを呪いながら、友達の幸せを素直に祝福してあげることのできない自分自身を嫌悪しながら。



 あのコと、冬木真夏と出会わなければ、きっとこんな苦しい思いをせずに済んだはずなのに。いや、そもそもボクが男に生まれていれば、きっとすべてがうまくいっていたはずなのに――。