自宅に着いたのは、図書館を出てから十五分後のことだった。全身汗だくになりながら、盛大に息を切らしながら、ただいまの一言もなく、ボクは一目散に二階へと駆け上がる。



 閉め切った自室は案の定、サウナのように蒸していた。



「あっつい……」



 思わずめげそうになるも、それでいてエアコンには目もくれず、ボクは勉強机に一直線。そして、パパからのお下がりである安物のノートパソコンを素早く起動した。



 すぐに立ち上がった画面にログインパスワードを入力し、ワープロソフトを開く。



 一ページ目。十五・六インチの液晶いっぱいに文字が羅列されている。しかし、タイトル欄だけが空白のままだ。 



 手垢だらけのキーボードに指を置き、まぶたを閉じ、いったん深呼吸。



 数秒後、ゆっくりとまぶたを開け、そして不退転の決意で一気にタイトルを入力した。



「……アゲイン」



 まるで天啓のように脳裏をかすめた言葉は、この大作を冠するに相応しい、実にストレートなものだった。



 再び、ボクはつぶやく。心で、強く、つぶやく。



 サマースマイル・アゲイン――。



 あの夏の笑顔を、もう一度。






「サマースマイル・アゲイン」完