十月に入り、夏服がその役目を終え、町を流れるそよ風に心地よい冷たさとキンモクセイの香りが感じられるようになった頃、ボクは真夏ちゃんの自宅に電話を入れた。夏休み明け以降、相変わらず彼女のスマートフォンには一切の連絡が取れず、そんな日々に業を煮やした結果、自ずと導き出された行動だった。



 放課後、午後五時。自宅二階の閉め切った部屋の中、帰宅するや否やボクは、スマートフォンの通話ボタンをタップした。六畳の空間を落ち着きなく行ったり来たり、心のざわめきを持て余しながら、やがて電話は六コール目で繋がった。



「……はい、冬木です」



 第一声、そのおっとりとした口調で、すぐに誰かわかった。真夏ちゃんのママだ。



 ボクは少し緊張しながら、



「もしもし、春原ですけど……」



「あ、小秋ちゃん?」



「はい、お久しぶりです」



「本当に久しぶりね」



 心なしか声のトーンが沈んでいる。



 結果から言うと、自宅に真夏ちゃんはいなかった。ジョーの死をきっかけとして精神を病んだ彼女は現在、市内にある総合病院の精神科に入院中とのことで、その旨を語りながら、真夏ちゃんのママはすすり泣いていた。



「真夏は今、誰かに会えるような精神状態ではないの」



 だから、そっとしておいてあげてほしい。静かにそう懇願されたボクは、



「わかりました」



 と肯くしかなかった。



 正直な話、ジョーが死んだという報せを聞いたとき、ボクは不謹慎にも歓喜してしまった。ライバルが、恋敵がいなくなった、そう思ったのだ。でも肝心の真夏ちゃんはというと、精神に異常を来し、高校を中退し、そして今もなお亡き恋人に操を立て続けている。



「どうしてやさしい心を持った人にほど、大きな悲しみが降り注いでしまうんだろうね」



「…………」



「小秋ちゃんは命を大切にしてね」



「……はい」



 十分ほどの通話を終えたあと、ボクは鬼灯色の夕陽が射し込む自室で一人、真夏ちゃんのことを思いながら、ちょっとだけ泣いた。



 季節は一つ、二つと移ろいでゆく。ボクらが泣こうが喚こうが、そんなことはお構いなしに、何もかも構わずに。すべては移り変わってゆく――。