願いが通じたのか、この日、真夏ちゃんは学校を休んだ。体調不良とのことだった。ボクはほっと胸を撫で下ろす。でも、予想外な出来事が起きた。彼女の欠席は翌日も、翌々日も続いたのだ。



「突然だが……冬木が退学した」



 藤沢多喜二、五十七歳児童買春疑惑ありが神妙な面持ちでそんな発言をしたのは、九月下旬のことだった。



 一瞬にして教室中がざわめき出す。真夏ちゃんの中退を惜しむ声がそこらかしこで上がり始める。大粒の涙を流している者までいる。



 しかし――信じがたいことに、担任の口から告げられた驚愕の事実は、生徒らにとっては瑣末な出来事でしかなかったらしい。何せ次の日にもなると、真夏ちゃんのことを話題にする者は誰一人としていなくなっていたのだから。もうすっかりそれまでの日常を取り戻していたのだから。あいさつもなしに学校を去っていったクラスメイトを泣きながら憂いていた人間でさえ、今や人気アイドルの事務所退所報道に夢中になっているようだった。



 この教室で彼女のことを、冬木真夏のことを本心から思い続けている人間は、おそらくボクただ一人だけだ。