S駅からそれぞれの住まいがある最寄り駅に向かうまでの十分少々の間、誰もいない車内でボクらは、スマートフォンで撮ったイルカの画像を延々と眺めていた。二人だけの最高の思い出ができたね、だなんてお互いにキャッキャと笑い合いながら。
「じゃあね、小秋ちゃん」
「うん。また夏休み明けに」
真夏ちゃんがE駅で降りたあと、ボクはその次のF駅で下車した。
F駅西口を出てすぐ、上下真っ青な衣服に身を包んだ十数名の男女が、何やら解読不能な呪文のようなものを唱えながら、列を成して通路を闊歩している姿が見えた。地元を拠点とする某カルト宗教団体の信者たちだ。
彼らの数メートル先では、東南アジア系の少女らが「アジアの恵まれない子供たちのために」と謳い、か細い声で通行人に寄付を募っている。そんな見慣れた光景を横目に、ボクは炎天下の中をマイペースに歩き進んでゆく。
途中、何気なくスマートフォンのデータフォルダを開いたボクは、先ほど撮ったばかりのイルカの画像をあらためて確認した。
「…………」
結局、ボクは自分の気持ちを、好きだという気持ちを、真夏ちゃんに打ち明けなかった。何せあのとき、あの瞬間。青空に浮かぶ大きなイルカが、ボクの心に語りかけたのだ。まだ早いよ、タイミングは今じゃないよ、とそう語りかけたのだ。
今にして思えば、熱波にやられておかしくなっていたのは、ボクのほうだったのかもしれない。でもボクは、イルカのお告げを信じることにした。だって彼は幸運の象徴であり、幸福を運ぶ使者なのだから。
高校卒業まで、あと約一年半。
「……何も焦ることなんかないよね」
冷静さを取り戻した頭で、ボクは自分自身に言い聞かせるようにつぶやき落とす。
その言葉は一瞬の涼風に吹かれ、やがて遠く、目に染み入るような青空へと運ばれていった。
「じゃあね、小秋ちゃん」
「うん。また夏休み明けに」
真夏ちゃんがE駅で降りたあと、ボクはその次のF駅で下車した。
F駅西口を出てすぐ、上下真っ青な衣服に身を包んだ十数名の男女が、何やら解読不能な呪文のようなものを唱えながら、列を成して通路を闊歩している姿が見えた。地元を拠点とする某カルト宗教団体の信者たちだ。
彼らの数メートル先では、東南アジア系の少女らが「アジアの恵まれない子供たちのために」と謳い、か細い声で通行人に寄付を募っている。そんな見慣れた光景を横目に、ボクは炎天下の中をマイペースに歩き進んでゆく。
途中、何気なくスマートフォンのデータフォルダを開いたボクは、先ほど撮ったばかりのイルカの画像をあらためて確認した。
「…………」
結局、ボクは自分の気持ちを、好きだという気持ちを、真夏ちゃんに打ち明けなかった。何せあのとき、あの瞬間。青空に浮かぶ大きなイルカが、ボクの心に語りかけたのだ。まだ早いよ、タイミングは今じゃないよ、とそう語りかけたのだ。
今にして思えば、熱波にやられておかしくなっていたのは、ボクのほうだったのかもしれない。でもボクは、イルカのお告げを信じることにした。だって彼は幸運の象徴であり、幸福を運ぶ使者なのだから。
高校卒業まで、あと約一年半。
「……何も焦ることなんかないよね」
冷静さを取り戻した頭で、ボクは自分自身に言い聞かせるようにつぶやき落とす。
その言葉は一瞬の涼風に吹かれ、やがて遠く、目に染み入るような青空へと運ばれていった。