「……あ」



 そして、



「……イルカだ」



 思わずつぶやいていた。



 いたのだ。イルカが、いたのだ。



 正確に言うと、限りなくイルカに近い形をした乳白色の雲が、茫漠とした青空をゆらりゆらりと揺蕩っていた。輪郭は大げさなくらいにイルカそのもので、まるで誰かの創作物かと思ってしまったほどだ。



 目をこすり、目を凝らす。やはり、いる。ボクは真夏ちゃんの気持ちを理解する。これは、興奮しないほうがおかしい。



「いたでしょ?」



「うん……すごいや」



 以前、深夜のバラエティ番組か何かで、世界の至る国々でイルカが幸福の象徴とされているという雑学を紹介していたのだけれど、ボクはこのとき、ふとそのことを思い出していた。



「ね! すごい!」



 普段味わうことのない昂りからか、お互いに語彙力が崩壊中。



 ボクらは一本のコーラを間に挟んで、すごい、すごい、と何度も同じ言葉を繰り返した。



 午後二時。イルカ発見以降も、ボクらは時間も忘れておしゃべりに興じた。将来の夢について、明日から始まる夏休みについて、レスターの風土について。気づけば、タイムリミットの一時間は、とうに過ぎ去っていた。



 そして――コーラの缶が空になった頃、ボクたち二人はS駅をあとにした。