このコを好きになってよかった。確信すると同時に、頬の紅潮を自覚する。



 なんだか急に照れくさくなったボクは、その気持ちを誤魔化すかのように、とっさに切り返した。



「真夏ちゃんは将来何になりたいの?」



 真夏ちゃんの親友を自称するボクは、彼女の夢を勝手にイラストレーターと予想している。真夏ちゃんは美術部の部長さんを務めているだけのことはあり、もうとにかく絵が上手いのだ。特に風景画。思わず息を呑んでしまうほどの繊細なタッチで描かれたその作品の数々に、ボクは幾度となく感服させられていた。



「わたしはねえ……」



 と、次の瞬間だった。



 不意に、潮風がボクらの前髪を数センチ揺らし、カモメの甲高い鳴き声が大気を震わせ、



「あ!」



 真夏ちゃんのびっくりしたような声に、ボクは思わず身体を仰け反らせた。



「ど、どうしたの?」



「イルカ! イルカがいるよ!」



 イルカ? イルカって、あのイルカ? 思いつつ、大海原を見渡すも、いやしかしイルカなんてどこにも見当たらない。


「……どこ?」



 凪いでいる海にじっと視線を据えたまま、ボクは尋ねる。するとどうだろう。



「空見て! 空!」



 真夏ちゃんがさらに声を張った。



 本日の最高気温、三十五・六度。もしやこの尋常ではない熱波にやられて、おかしくなってしまったのだろうか。



 興奮し切った真夏ちゃんを心の底から心配しつつ、それでいて一応、ボクは促されるままに頭上を見上げる。