きっかけは本当に些細な出来事だった。



 高校入学早々、友達作りに乗り遅れたボクは、休み時間になるといつも一人、自席で文庫本を広げていた。もともと内向的かつ地味なボクの入学前の目標は、一人でも多くの友達を作ること。



 その年のお正月には「脱陰キャラ宣言」などと書き初めし、自室のドアに貼りつけたくらいだ。気合だけは入っていた。でも生まれ持っての性格は、やはりそう簡単に変えることはできなかった。



 結局、派手グループ、普通グループ、地味グループのどれにも属することができず、完全に孤立したボクは、ほどなく華の高校生活って奴に潔く諦めをつけることになる。一日中誰にも話しかけることなく、だからといって話しかけられるようなこともなく、ただひたすら漫然として過ぎ去ってゆく無彩色な日々。



「…………」



 七月上旬。夏休みが間近に差し迫った賑々しい教室の真ん中には、相変わらず文庫本を広げ、自分だけの世界に没入しているボクの姿があった。



 校内透明人間も板についてきたようである。



 この頃にもなるともう現状に悲観するようなこともなくなっていた。完全に吹っ切れていた。