「ごめんね」



 真夏ちゃんがいつになく低いトーンでつぶやいたのは、ちょうど校門を抜け出たときだった。



「一緒に帰る約束なんてしてなかったのに、あんな嘘ついて」



「ううん」



「終業式の日は、どうしても小秋ちゃんと一緒に帰りたかったの」



 表情を陰らせる真夏ちゃんを真横に見ながら、ボクは激しく動揺してしまう。



 確かに一緒に帰る約束なんてした覚えはない。そもそも終業式でばたばたしていたということもあり、ボクらはつい先ほどまで会話らしい会話すら交わしていなかったのだ。でもそんなことは、もはやどうだってよかった。真夏ちゃんがついた嘘によって、今この瞬間が存在するのだから。



 真夏ちゃんに感謝しながら、ボクは努めて明るくこう言った。



「実はボクも、終業式の日は真夏ちゃんと一緒に帰れたらいいなあって、密かに思ってたんだよね」



「本当?」



「うん。だから、そんな顔しないで?」



「……ありがとう」



 白と青のコントラストが映える昼下がりの空の下、今日も夏らしく、じりじりと焼けるように暑い。



 どこからともなく漂う塩素の匂いを鼻先で感じながら、時折お互いの肩と肩を触れ合わせながら、ボクたちはきらきらとした光の中を同じ歩調で進んでゆく。