七月二十四日、火曜日。



 終業式を終え、今学期最後のホームルームが行われている二年D組普通教室。



「X」を「エッキシ」と発音してしては生徒たちに気色悪がられている名物数学教師、藤沢多喜二、五十七歳児童買春疑惑ありが教壇にて、そのシワだらけの額に汗を浮かべながら、



「セブンティーンの夏は人生で一度きりだあ! 諸君、悔いのないサマーヴァケーションを送るように!」



 などとハイテンションのハイバリトンで告げた直後、



「はーい!」



 という総勢四十名の男女の浮かれた声が、埃っぽい教室の隅々までこだました。



 この夏のクラスメイトたちは皆、妙に張り切っていた。誰もが一様にひと夏のアバンチュールを期待し、胸を躍らせ、両目に凶悪な輝きを宿らせている。そんな中、ただ一人、ボクだけが砂を噛むような表情を浮かべていた。



 夏休みが始まってしまえば、真夏ちゃんと顔を合わせる機会も激減してしまう。ただでさえ人気者の彼女のことである。スケジュールは売れっ子アイドル並に、一ヶ月先までほとんど埋まってしまっているに違いない。



 オール「3」の忌まわしき通知表の影響も相まって、気分はどんどん下降していく。