「で、真夏と何があったんだ?」



 元軟式野球部ピッチャーでキレのあるストレートを得意としていた白石くんは、いつだって直球だ。回りくどいことをしない。



 白石くんの直球を真正面から受け止めたボクは、すぐに直球を投げ返す。



「真夏ちゃんにね、彼氏ができたみたいなの」



「……そういうことか」



「うん。しかも、つき合い始めてもうすぐ半年になるんだって。ボク、今日までなんにも知らなかった」



 直後生まれた沈黙を埋めるために、ボクは手元の特保コーラに手を伸ばした。キャップを開けた途端、プシュッという小気味いい音が、夏の気だるい空気に溶けた。



「おまえ、真夏のこと好きなんだろ?」



 特保コーラ独特の甘味と弾ける炭酸を口いっぱいに感じてから数秒、遠くのアスファルトに視線を向けたままの白石くんが、不意に尋ねてきた。



 あらためて聞かれるようなことでもないよなあ、などと思いつつ、けれどもボクは律儀に、



「好きだよ。大好き」



「このままでいいのか?」



「え?」



「気持ちを押し殺したままでいいのかって聞いてんだよ」



 要するに白石くんは、ボクに真夏ちゃんへの告白を促しているのだろうか。



 告白――考えたこともなかった。いや、考えないようにしていたのかもしれない。胸の内を打ち明け、好きです、と伝えたところで、結果は見えている。ボクの告白によって今の関係が崩れてしまうくらいなら、このままでいいと思った。きっとどこかで、そう思っていた。



「どうせ振られるって、そう思ってるんだろ?」




 図星だった。



 白石くんは相変わらず遠くを見つめている。シンプルなシルバーピアスが左耳できらりと輝いている。いつの間に開けたのだろう。練習中に右肘を痛め、今年の春に軟式野球部を退部してからというもの、彼の容姿はなぜか日に日に派手になっていた。