どうしたって北見は私の気持ちを掬い上げてなんかくれないし、それはわざとでも何でもなくて、それが北見真紘という小説家だから、仕方のないことだ。

「私は北見が好きだよ」
「僕だって、氷川のことは好きだけどさ……」

そうじゃないじゃん、と彼が頭を抱える。

私の好きは、そういう好きで、北見の好きは、人間として好ましい、という好き。

「ねえ北見」
「うん?」
「ハグしてもいい?」

切長の目が大きく見開かれる。本当に、彼は迷子の幼児のようだ。

「ハグって、抱きしめる?」
「そうだねえ」

しばしの熟考の末、北見真紘が口を開く。

「やめとく」

仮初でしかないじゃない。

緩やかに弧を描いた唇の端が、憎たらしくて仕方がない。それと同じくらい、北見がきっぱりと断りを入れたことに、安堵する。

カチカチと、シャーペンの頭がノックされる音がして、続けて紙が擦れる音がする。

外では蛇口を捻ったみたいに、雨が降っていた。