ずっと横に座っていたい。
あなたの話を聞いていたい。
大事にされたい。
笑って欲しい。
話を聞いて欲しい。

考えれば浮かぶ言葉なんてありきたりなものが沢山あるのだけれど、それはきっと、私が無知の知を理解できないのと同じように、北見だって分からない。
私が北見という人間が分からないのと同じように、北見が見つけたい答えを見つけられなくて、もどかしさに苦しめばいい。

「氷川なら、分かると思った」
「それはなんで？」
「氷川は僕とは違うから」

北見は自分の小説を、退屈で面白みの無いものだという。
でも私は、北見の小説は刺激的で非日常を味わえると思う。
北見は好きが分からない。
私は好きが分かる。

私と北見は違う。

「北見は天才だからね」
「そんなんじゃなくて」

ぎゅっと、北見の眉尻が下に下がる。
ああ、愛おしい。
そうしてもっと、困ればいい。

北見はあんなに暗くて捻くれた話を書くくせに、私の言葉は真正面から受け止める。それを特別だと勘違いするのは、あまりにも私が愚かだったからなのだ。