なぜ、私は北見のことを好いているのか。
北見のように真剣に考察してみて、笑いが溢れる。理由はよく分からない。

きっかけは、気まぐれで読んだ本だった。
高校2年から3年に上がるタイミングで、学校が休校になった。感染力が強いウイルスが流行っているからとかなんとかで、あれよあれよと言う間に色んなお店が閉まって、スーパーやコンビニ以外の外に行きづらくなった。友達には会えないし、動画サイトも映画も、めぼしい物は全部見尽くしてしまった頃、何を血迷ったのか普段は読まない本に手が伸びた。

それはたまたま家のリビングに置いてあった物で、4歳年上の兄が買った物だという。気に入りの漫画やゲームは共有スペースなんかには置いておかない兄だから、きっとこの本は面白くなかったのだろうなと思いながら、まあ私も本は苦手なんだけどなとため息をつきながら、余りの退屈を紛らわすためにページを捲った。

そいつには随分と時間を取られた。普段活字を追わないからなのか、話の内容が難しかったのか、はたまた両方か、よく分からないけれどとにかく1日やそこらじゃ読み終わらなかった。

読み終わった後、ひどく暗い話だったと、苦笑した。恋人に裏切られたヒロインが、なんだかんだで職場の先輩といい雰囲気になるのだけれど、突然その元恋人が死ぬ。それはまあ、突然。結局、ヒロインは元恋人の亡霊を振り切れず、先輩の愛も失うというシナリオの、誰も救われない話。

これはあの楽天家の兄は好まないだろう。私だって好きじゃない。

消化不良のまま、惰性で裏表紙まで眺めてみて、ふと著者の名前に気を惹かれた。
北見(きたみ) 真紘(まひろ)
どこかで聞いたことがあるような。
いや、どこだ。
誰だ。

うんうんと考え込んで、結局答えが見つかったのは休校から2ヶ月が経った、6月のことだった。