絶え間なく続くノック。まるで音ゲーかのように、太鼓の〇人のように。
 僕の家には、中からのぞけるような穴は備え付けられていない。怖い。正直怖い。けれど空けるしかないのだ。しゃあない。
 
 待て、こういう時は準備だ。
 急いでキッチンへ向かい、包丁を取り出した。それを右手に持ってから、恐る恐る扉を開ける。

 「やっと開けてくれた。いたのは分かってましたよ」

 扉を開けると、そこには黒髪ロングの、可愛らしい女性がいた。彼女はニコニコ笑っていた。知らない人がニコニコしているのだ。正直怖い。

 「……あのー、どちら様でしょうか?」
 「ああ……」

 彼女は笑顔を崩さなかった。けれど、その瞳の色は、悲しみの色に変わっていく。笑顔は変わらない。また俺、何かしちゃったのかな。
 
 「私は、あ、……ペディ」
 「アペディ?」
 「ペディ!」
 「ペディさんですか!?」

 『ペディさん』
 頭の中でピースが一つ、ハマったような気がした。すかっとしたというか、気持ちいい感じ。けど、完全にはハマってない感じ。

 「あぁー、もしかして、私にビビってたんですか?」
 「え、どうして?」
 「包丁なんか握っちゃって、可愛いですよ。せん……」
 「せん……?」
 「……さ、おじゃましまーす」
 「な、ちょ、ちょ、………えぇ。……なんだこれ」

 突然来た彼女は、ずかずかと家に上がり込んできて、まるで自分のものだと言うようにベッドに飛び込んだ。
 僕の枕に頭をうずめている。

 「さっきまで、寝てたよね、ここで。温もり、感じるよ」
 「まあそうですけど……」
 「……そうだ、敬語。敬語はナシで!」
 「そっちは?」
 「私はいいんですー。じゃあ敬語にしてくださいね」

 初対面なんだから、敬語のほうが。と言いたいところではあるが、僕の方もどうしてか敬語に違和感を感じていた。
 だから丁度いい。

 「分かりました」
 「だーかーらー。分かった、で、いいんですって!」
 「えっぇ、ええっと……分かった」
 「そうそう、やればできるじゃないかー」

 起き上がってきたペディさんは、僕の頭をくしゃくしゃにわしゃわしゃにする。初対面なのに、ずかずかと踏み入ってくる奴だ。けれど、不思議と嫌じゃない。

 「うえぇ、汗かいてるー。そうだ、お風呂入りましょうか、一緒に」