じゃぶじゃぶと、顔に水を浴びせる。二度三度したら、隣にあるタオルで顔に付着した水をごしごしと拭き取る。
 僕は朝ごはんよりも、顔を先に洗う派なのだ。だって、目が覚めるから。

 それから冷蔵庫を開けて、残りを確認する。
 食パンがあった。袋から一枚取り出して、電子レンジにそのままぶち込む。30秒だけ温めるのがいいのだ。少し待ってから、電子レンジを開ける。
 ほら、ふわふわのパンの出来上がり。
 こうすれば冷蔵庫で冷たくなった食パンも元通りだ。僕のおすすめの調理法。気になったらやってみなよ。損はないからさ。

 食事を食べて、歯磨きをして、服は……いいや。どうせドラッグストアの品出しだから、作業着に着替えないとだし。
 サイズの合わないボロボロの黒いTシャツと、ラフなパンツでバイト先へ向かう。


◇◇◇


 「ええと、どっちだっけか……」

 見たことのない看板。どっちを見ているか分からないミラー。看板を見れば、知った情報しか書かれていない。なのに、どうしてだろう。
 道に迷ってしまったようだ。時間にゆとりを持って出てきたので、遅刻はないとは思う。けれどこんな道知らないなぁ。
 下手に動くと更に迷いそうだし。
 さてどうしたもんか。

 道に迷っていると、僕の横を、女子高生が自電車に乗って、通り過ぎた。ひらひらとスカートがなびく。
 その制服に見覚えがあった。
 さらに多くの高校生が同じ方向を目掛けて歩いていく。ああ、そっか。こいつら後輩じゃないか。
 そしてこの道は国道1234線に繋がってるんだよね。ちゃんと思い出せた。

 道を思い出した僕には怖いものなんてなかった。さっきまでの迷子なんて嘘かのように、スラスラとうまくいく。気づけばもうドラッグストアはすぐそこ。
 
 よし、今日も頑張るぞと、頬を叩いて、裏口から入った。


◇◇◇


 「ああ、今日も疲れたなぁ」

 そう言ってベッドに飛び込んでみれば、あれよあれよと意識は失われていく。良い子のみんなは、仕事終わりに絶対にベッドへ一直線は、しちゃだめだぞ。
 絶対寝るから。

 例にもれず、僕もグーグーしていると、夢の世界をこじ開ける音が聞こえた。

 コンコン、コンコン、コンコンコンコンコン。

 え、何? 怖い、寝起きには悪いって。