「そんな敬語じゃなくて、もっと普通にしゃべろうよ」
 「はい」
 「ほらー、そういう時はうんって言うんだよ」
 「はい、分かりました」
 「ほらまた! だからー、うん、だってばー」

 初対面である彼女は、僕にとって話しやすかった。
 なぜだか分からなかったけれど、ペディさんは話しやすかったのだ。

 ペディさんは料理を作って、僕と二人で食事をした。
 彼女に似合わないおんぼろアパートで、楽しく食事をとった。けれどその光景はどこか懐かしいような、家庭を思い出すような。
 そんな時を過ごす。

 「この映画、面白そうだね」
 「どれどれー?」
 「CMのやつ」
 「ああ……半年後公開だって。【テディベアの贈り物】、クマ好きですねー。そこにもいるし」
 「そうだね。クマはね―――」

 
 しばらくして、彼女は帰った。

 彼女はご飯を作って、俺と歓談して、楽しい時間を過ごした。
 ペディさんについて、僕は何も知ることはできなかったけれど、あの様子なら明日も来てくれそうだ。明日来なくたって、すぐに来てくれるだろう。明後日とか、明々後日とか。
 けど、どうしてこんな僕のもとに、あんな可愛い女の子が……

 そんな楽しい時間を想いながら、僕は瞳を閉じた。
 そして次の日―――


◇◇◇


僕は最近、頭から離れない言葉がある。

 『ペディさん』

 そんな言葉、聞いたことあるだろうか。少なくとも、僕は知らない。
さんを付けた呼び方。人間だろうか。いや、人間以外にだって、さん付けはする。仮に人間だとして、ペディという名前。
 これは聞いたことが無い。男性なのか、女性なのか。はたまた未知の性別なのだろうか。
 いや、そもそも人ですらない可能性がある。

 いったい何なのだろうか―――


 朝起きると、カーテンが開いていた。
 入ってくる光の感じから、今は朝だと予感した。時計を見てみると時刻は7時。しっかりと朝だった。

 僕は起き上がって、手帳のそばに置いてあったアルバイト表を見る。
 午前9時から午後3時。
 今日はこれからバイトが入っていた。早く起きることができてよかった。
 
 まず、洗面台に行って、顔を洗う。
 おっと、その前に、テディベアに挨拶してからね。
 水は大切だから、蛇口は顔を洗う時だけ捻る。これも節水の手段の一つだ。お金がもったいないからだ。