本当に本当に、ありがとう。
 まだまだ言い足りない。
 
 だからさ、
 
 ねぇ、ペディさん。もう僕を好きにならないで―――

 道で泣き崩れる男が一人、
 そんなことを気に留めず、今日も街は流れていく。
 彼女と彼の壮大な恋物語は、二人だけの秘密物語。それも今日で終わった。今日は、物語を紡ぐことをやめて、前に進んだ、新たなる門出の日。
 祝うものなんて誰もいなかった。


◇◇◇

 
 冬の空。冬の街。
 街はクリスマスキャロルが流れ、木という木すべてがライトアップされている。
 空からは粉のような雪が舞い、地面を白く染め上げていく。
 人々は行きかい、クリスマスに浮足立って、クリスマスプレゼントを抱えて歩くもの、二人歩く男女、さまざま。

 そんな日、僕は道に迷っていた。
 買い物に行こうとしたけれど、地図を見たってどこがスーパーか分からない。
 さて、困ったなぁ。
 どうしたもんか。
 看板でも探そうか。
 僕は街の中へ歩き出した。

 あれは何だろう。
 ああ、映画館か。何か面白い映画でもやっているかな。
 
 映画のポスターが並べられている通り。映画館の建物の外壁。
 実写映画や、プリンキュアの映画もある。これが今人気なのかな。最近の流行は僕には分からないや。
 僕は人ごみの後ろの方から、それを眺めていた。
 あ、面白そうなのあった。
 【テディベアの贈り物】
 なんだか分からないけれど、面白そうだ。そしてなんだか懐かしい。

 その時、前に見慣れた人影を見つけた。いや、僕にはそんな人はいるはずはないのだが。
 前にいた彼女は、黒髪長髪で可愛らしい女の子だった。
 唇にどうしても目が行ってしまう。
 その彼女は、僕と同じく【テディベアの贈り物】のポスターを見ている。彼女も気になっているのかな。

 特に何も起きるわけでもなく、彼女は立ち去った。
 一瞬目が合った。そんなような気がしたけれど、所詮僕には関係ない。僕もここから立ち去ろうか。

 いや、待って。待って。待って!
 僕は振り返って、後ろで歩く彼女を見据える。
 そして僕は彼女に届くように、こう言った。

 ねえ、翔子さん―――